……ただいま




「おかえり」


 部屋に帰って来た結城が面食らったような顔をする。昨日言われた通りに笑顔で『おかえり』って言っただけなんやけどな。結城の中で俺という人間は相当ひねくれた奴らしい。


「……ただいま」


 そんな風に照れながら言われたら、なんか……俺まで照れるやんけ。


「なあ、ちょっと相談があるんやけど」

「なんや。また真面目な話ってやつか」


 そう言いながら、結城が俺の向かいに腰を下ろした。


「うん。まあ、そうなんやけど」


 俺は立ち上がって結城の隣に座り直す。そしたら今度は手で顔を覆って『ハァ』と溜め息を吐いた。


「お前昨日からなんか変やぞ」


 そう言った結城は能面のような感情が読みにくい顔に戻っとった。それからいつものように自然な動作で俺を抱き上げて膝の上に下ろした。
 ていうか『昨日から変』ってことはやっぱ、俺が結城を好きやと自覚した瞬間からってことなんやろか。店長にもバレバレやったし、俺ってそんなに態度に出るタイプやったとは……気を付けなあかんな!


「で?」

「もっかいBluemoonで俺を雇ってほしい! です!」


 『Bluemoon』っていうのは俺がずっとお世話になってた結城がオーナーをしとる喫茶店のこと。


「……なんで?」

「バイトしたい、から」

「なんで?」

「お金が欲しいから……」

「金はお前が欲しいだけ渡す言うとるやろ」


 本気の呆れ顔。というか、これは……怒ってる……?


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