お、ヤナ。




「お、ヤナ。久しぶりやん」

「店長〜! 何で俺に教えてくれんかったんですかー!?」

「いきなり何? ……ああ! 結城組のこと?」

「それ系です」


 昨夜、結城から聞いたことは、ずーっと悩んできたことをちょっと解消してくれた。
 なんで俺を助けてくれたんか。俺は結城に金を出させていいんか。結城の優しさが何なんか。いつか、絶望を味わうんやないか。

 大丈夫。きっと大丈夫。
 俺はそう思えた。


「ええ顔してるやん」

「……まぁ」

「僕は結城さんに恩がある。結城さんに口止めされたら何も言えへんよ」

「恩?」

「僕ね、ほんまはこの世に存在せえへん人間なんよ。死んだことになってて、なーんも無い奴やねん」

「……え? えー……?」

「そんな奴を結城さんは拾ってくれて、仕事を与えてくれて、僕を自分にとって必要な人間やって言うてくれた。そんなん兄弟以外で初めてやったから、それはそれは嬉しかったよ。せやから、僕は結城さんに言われたことは守る。ヤナには悪いことしたと思うよ。ごめんね」

「……そんなん言われたら、何も言えませんやん」

「せやろ。で? ほんまは何の用で来たん?」

「えーっと、……もうめっちゃ言いにくくなった! 店長、俺が何言いたいか分かってて先に釘指したんでしょー!」

「結城さんに内緒で雇える訳ないからね。誰から給料貰っとると思ってんの」

「うっ! やっぱ別で探すしか……」

「それを結城さんに報告せえへんつもりやったら、僕が結城さんに言うから」

「じゃあ俺どうしたらいいんすか!」

「そもそも何でバイトしたいん?」

「結城に借金返したいからです」

「結城さんがそうしろって言うたん?」

「返していらんって言われました。言われたけど、そういう訳にはいかへんから……だって、何千万って額やのに、俺、そんなん嫌や」

「うん。じゃあ結城さんに相談してみな? ここで、働いてお金返すって。ちゃんと伝えたら、ちゃんと応えてくれる人やから。な?」

「あかんって言われたら?」

「そしたらどっか他の所で内緒でバイトしてやるって言うたらええわ」

「ええ? 結局そうなるんすか?」

「大丈夫。僕の言う通りにしたら、結城さん折れるはずやから」


 そう言うて笑った店長の顔は、めっちゃ悪そうやった。うわあ、店長を敵に回さんとこう! って思うには十分の腹黒い笑顔やった。

 それから、約2週間ぶりに飲んだ店長のコーヒーは、ひどく懐かしいような気がして、自分の日常やったもんがずっと遠くへ行ってしまったことを実感した。


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