フッ……




「あれ? 山下さん」

「また、お邪魔してます」


 いつも結城が帰ってくる直前に俺のお世話という仕事を終わらせる山下さんが、結城に会わんようにはかってんのかっちゅーくらいシュバっと引き際のいいあの山下さんが、結城のために料理をしとるなんてこれまた。
 記念にツーショットになるように写メでも撮っとこうか。カメラの機能の有効活用。


「花月」

「ん?」

「お前も食うんやったら上着て来い。せやなかったらはよ寝ろ。風邪ひくぞ。夏風邪は……」

「うっさいわ。どうせアホですよ俺は」

「フッ……」


 笑った。鼻で。
 けど、ちょっと笑顔。かっこええやんけ。クソ。

 上着を取りに行かんと結城の隣に座った。真夏に上着なんかいらんやろうと思ったから。


「アホ」

「な……っ」


 ふわっと結城の匂いに包まれる。結城が背広を俺の肩にかけてくれた。


「山下。冷房の温度上げろ」

「はい」

「あ、ありがと……」

「……なんや、珍しい。いっつもそんぐらい素直やったらええねんけどな」

「う、うっさいわ」

「ほーれ、可愛げない」

「どうせ俺は可愛げないですー! 可愛いないですよーっだ!!」


 また結城が笑う。それが嬉しくて、俺の顔も勝手に緩んだ。
 それだけでやっぱ幸せやって、思った。


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