ただ想おう




 ……あかん……のぼせた。


「う、わ……」


 なんぼ顔合わせ辛いからってこれは、浸かりすぎや。立ってられん。やば……頭ぐわんぐわんするし。
 目の前が真っ暗になって、何とか壁を背に座り込んだ。真っ裸のまま回復を待つ。
 結城は、今何やってんねやろ。俺のこと考えてたり……ないか。ないな。俺こそ何考えてんねん。
 けど、一応これって初恋やん。やっぱ、俺のことも好きになってもらいたいやん。……いや、ないか。ないない。そもそも男同士ですやん。キスは、するけど……ってまたや! またそこに戻ってるし!

 ……いい加減、堂々巡りやな。


「なんで俺にキスするん?」


 ……て聞く? 聞いちゃう? もう思い切っちゃう? で、それでキスしてもらえへんなったりとかあるかな。
 うわー、それ嫌やな。俺が惚れたん知られたらキモがられたりとか。ぎゃー! ありえる! あっちはほんの戯れのつもりでしたーとか。


「……あかん。ヘコんできた」


 立ち上がって身体を拭く。パジャマ……山下さんが買って来てくれた牛の着ぐるみみたいなやつ……を着る。なぜ牛。なぜ19にもなって牛。
 ドライヤーで髪を乾かす。言うても短いし、毛少ないし、ものの5分で完璧や。ただ将来に一抹の不安があることは否定できん。

 鏡の中の俺を見て気合いを入れる。結城のことを好きになったんは、秘密や。きっと俺は、結城の優しさに甘えて依存して、理想みたいなもんを押し付けて、勝手に傷付いたりすると思う。そんなんアホみたいやん。
 結城にお世話になるんは大学を卒業するまで。借りた金は返せるようにバイト探そう。けど、勉強も今まで以上に頑張ろう。結城に学費出してもらってんねんから。結城が、俺を助けたことを後悔するようなことがないように。

 結城のそばにおるんは、大学生の間だけ。


「……泣くんはこれが最後。頑張ったんで! 失恋確定! 怖いもんなしや!」


 ただ想おう。期待はせんと、今そばにおれることを喜ぼう。


「よっしゃ!」


 冷水で顔を洗って、結城がおる部屋に戻った。


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