開けません!




 お互い何も喋らんと抱き合ったまま、しばらく時間が経った。寝不足続きやったこないだまでの俺やったら即行で寝てしまうくらい安らぐ腕の中で、ちょっと頭の中を整理しようとする。

 結城と俺は子供の頃に一度出会っとる。その時、10年以上経っても記憶に残るくらいの名言を俺が結城に言うたらしい。けどこれは美化されとる可能性がかなり高い。
 その後、高校生になった俺が、結城の店やと知らずにバイトをしたいと申し込む。そのまま約2年。好条件のバイトに縋り付く俺。大学に行こうと思えたんもこのバイトのおかげやったりする。
 しばらくして、親父が事故に遭ってそのまま帰らぬ人に。で、俺が親父の借金を返さなあかん状況になったことを結城が知る。そして結城曰く、子供の頃の名言の恩返しに、金銭面で俺を助けてくれる気になったとさ。
 チャンチャン。

 ……ではなぜ俺にキスをする!

 結城が俺の弱みを握るために、でもって俺を今後利用するために、借金の肩代わりをしたんやないんやったら、それはもう結城の善意ってことになるやん。
 そしたらお前、何でキスされたり、こんな風に抱き締めあったりすんねん。っていうか、それはお前あれやんけ。何回も考えて、何回も先延ばしにしてきた触れたらあかん パンドラの箱やろが。今お前それ、開ける?

 ……開けません!

 ですよねー。開けませんよねー。それって考えたらあかんやつやん。うっかり怪我とかしてまいそうな感じのあれやん。っていうか、そこ突き詰めてしまったら、俺って最終的にこれ、絶対傷付く結果に終わるやつやん。


「……花月。顔上げろ」

「な、なんで?」

「キスするから」


 ドクンっ! と心臓が激しく脈打つ。顔が火照る。途端に緊張する。
 けど、結城の手が俺の顔に触れて、自分の方に向けようとしたら……俺の目線はもう、結城の唇にしか向かん。

 これからされることに期待しとる。俺は結城にキスされたい。

 あかん。俺、結城が好きなんやわ。


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