全部奪われたくない
結城が部屋に帰ってきた。ドアを開けた所でしばらく突っ立ったまま何か待っとるような顔をしとる。
「……あ?」
「おかえりなさいくらい笑顔で言われへんのか、お前は」
「おー、おかえり。お疲れ。それより俺はお前に話がある。はぐらかさんと答えろ」
「ああ。バイトの話か?」
「それもある」
結城が俺の隣に座ろうとするから、俺は立ち上がって、テーブルを挟んだ向かいに座り直した。
「おい。2人でおる時は俺の膝に座るで決着ついたやろが」
「例外1。真面目な話をする時は別」
密着したらなんやかんやではぐらかされてしまうからな!
「何やそれ。話ってなんや」
「お前言うたよな。俺らは初対面やない。最初は俺からお前に話しかけたって」
「思い出したか?」
「いや、全く。……親父の借金3千万。卒業までの学費3年分。それから食うもん、着るもん、必要なもん全部お前が面倒見てくれる。確かにお前がおらんかったら、大学やめて働いたとしても借金返すこともできんとひどいことになっとったと思う。お前がおってくれたから大学も行けるし、正直、有難いって思っとる。……けどな、俺はこんなんラッキーや思て笑ってられん。どんどん重たくなってくる。俺が必死で働いても払えへんような金ポーンと出されとんのに、俺は何もせんでいいって言われる。逆に何でもするから言うてくれとまで言われる。俺は、何もできん訳やない。俺は、お前の何なん? おもちゃか? ペットか? ……お前に感謝はしとる。けど、全部奪われたくない」
俺はぐちゃぐちゃした気持ちをぶちまけた。伝わったかどうかは分からん。そもそも、俺ですら自分の気持ちを整理できてないねんから。
「……要は、俺の行動の理由を知りたいんやろ?」
「そうやな」
「助けてやりたいから。あと、俺のそばにおいておきたいっていうもあるな」
「だから、それの理由を知りたいねんて」
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