ほっとする




 何でか正座を続ける花月を一旦ほっといて、ベッドに横になった。そんな俺を花月は何でか不安そうな顔をして見とる。花月が何を思って、そんな行動や表情をするのか、理解してやれへん自分に腹が立つ。
 どうしてやれば笑う? 何が嬉しいねん? 分かって、叶えてやりたい。全部。花月が望むもの。全部。


「花月」


 一緒に寝たいって言うた花月の可愛い願望を今はまず叶えてやろうと、名前を呼んだ。腕を伸ばして、ここに寝ろと示す。
 俺の顔と腕を交互に見て、遠慮がちに寝転んだ花月の顔はまだ不安そうで、それでもかけてやる言葉の一つも浮かばん俺は、その表情を隠すみたいに抱きしめた。見たくないから。他にどうすることもできへんから。


「ほっとする……」


 空気を吐いたみたいに微かな声で、花月が漏らした言葉に救われる。
 何かしてやりたいって気持ちだけが先走って、何もしてやれてない自分。結局できることは金を出すことだけ。今まで生きてきて、まともな人間関係を築いてこんかったツケが回ってきとる。花月の心の中まで知りたいけど、その術が分からん。


「俺な、あの家行って、めっちゃ広い部屋使わせてもらっててん」


 あの家って言うのは当然、今日行った母親の家のことやろうし、あんな家やったら広い部屋を与えられるんも当たり前のことやろう。逆に狭い部屋をこいつに使わせたんやとしたら訳を問いただしてやりたいわ。
 それがどうしたと思いながら、黙って耳を傾ける。


「広いのに、何も無くて。何にも音もせえへんくて。夜になって寝ようとしても、静か過ぎて、寝れんくて。ベッドも無駄にでっかくて……俺一人なんやって、何かめっちゃ実感してもて、そしたらもうベッドにはおれんようなって。電気付けて、本読んで、寝れんまま朝になって」


 ポロポロ零れていく言葉を、一つも取り残さんように聞く。今、花月が伝えようとしてくれとることは、弱音とか甘えとか願望。俺の知りたいもの。


「たぶん、結城がこうやって抱きしめてくれて初めて、安心して寝れるんやと思う」


 ああ、それで。
 俺が風呂に入っとる間ソファで縮こまってたんか。寒いくせに、一人でベッドに入りたくないから。抱っこしろなんか言うて、俺に連れて行かせて引き留めて。俺がどんな反応をするんか不安になってたんやな。
 俺が花月を手放したから、付いた傷。俺が原因の傷やったらそれすらも愛おしいって言うたら、やっぱ歪んどるって思われるんやろか。


「俺が帰って来るんが遅くなって、お前が1人で寝ることになっても、起きる頃には絶対にこうして抱きしめといてやる」


 安心させれるような優しい言葉は思い付かん。せやから俺はとにかく花月の細っこい体を強く抱きしめた。
 こうやってちょっとずつでも、花月のことを知っていくことができたら、それは幸せっていうやつなんやろう。
 安心したように腕の中で眠る花月を見ながら、そんな似合わんことを思った。


end.
2015.02.21 完結


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