俺のこと……好き?




 不満そうな顔をする花月は、それでも『恋人』っちゅうワードを出したせいで文句を言いにくそうにしとる。今後は何をする時でもそう言うてやろうと密かに思った。
 学費を出した時も、洋服を買うてやる時も、どっかでメシを食う時も、何にしろ金が絡む時には居心地の悪そうな表情をして、必要以上に気にする花月。それが当然とか言うてでかい顔されるよりかはマシなんやけど。もうちょっと素直に俺に甘えてもええやろ、とも思う。
 花月を何不自由なく過ごさせてやるくらい俺にとっては容易なことやし、何より俺みたいなもんはそれで自分の欲も満たされる。


「……恋人に、なったんやんな。俺ら」

「一昨日からな」

「俺のこと……好き?」


 不安そうでもあり、期待もしてますって顔。そういや俺は言うてへんかったか。


「聞きたいって?」

「ちゃんと言葉で聞かせてや」


 じっと俺の目を見つめる花月の頬に手を伸ばした。頭を固定してすかさずキスをする。


「お前への気持ちをあえて言葉にするんやったら……愛しとる、やろうな。好きなんていう言葉では収まらんわ」


 花月が好き?
 そんなんでは全然足らん。全部、何もかも、髪の毛一本、爪の先まで俺のもんにしたい。他の誰かを見んな。俺のためだけに声を出して、笑って、俺だけに触れればいい。
 でもそれが叶ったとしたら、きっとそれは花月の姿をした花月やない誰か、になるような気がして……俺はやっぱり遠くから眺める花月さえも愛おしいんやと、自分の気持ちの重さに気付かされる。


「……あ、りがとっ」


 顔を赤く染めて恥じらう花月が、意を決したみたいにぐっと眉間に皺を寄せて、俺に拙いキスをした。
 たったそれだけ。ほんまに触れるだけのキス。何ならちょっと唇と唇がぶつかっただけ。それでも俺は身動きができんようになるくらい、その下手くそなキスが嬉しかった。


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