家族になりたい
「花月に、こうしろああしろ言う資格なんか私にはないけど……ほんまにええの? ちゃんと、考えた上でのことなんやんね?」
養子縁組はせんと俺んとこへ戻ると、母親に伝える花月の隣で、俺は何を言う訳でもなくただその会話を聞いとった。
お金持ちの名家なんやから、ヤクザと関わり持っとる息子なんかいらんやろ。と軽く言い放った花月はこっちが驚くくらいあっさりした顔で、その表情だけでも俺はほんまに花月に想われとるんやと実感することができた。
「はい。俺は結城の、家族になりたいと思います」
「…………」
俺を汚いもんでも見るように、睨み付けてくる母親を見返す。何一つとして誇れるもんがない俺に言えることなんぞ何もない。花月を幸せにしたいと思うんやったら、身を引くべきなんも分かっとる。俺はただ、花月の気持ちに甘えとるだけや。
それでも、花月が俺のそばにおりたいと思ってくれる限り、俺は俺のしてやれることは全部してやりたい。そういう思いを込めて、母親の目を見つめた。
「……たまには、うちにも寄ってね?」
母親がそう言うと、花月は嬉しそうに笑って『はい』と言うたけど、こいつはきっと来る気はないんやろうと何となく思った。
花月にとって、母親という存在は『自分を産んだ人』であって『家族』ではないんやろう。花月の家族はただ一人、死んだ親父だけ。血の繋がった母親とその旦那の家に連れて行かれて、さあ両親や甘えなさい言われたかって土台無理な話。結局、花月はその家の中で自分を異物のように感じるだけ。
恋人っちゅう関係になった俺との方が、まだ家族になることを想像しやすいのかもしれん。
「ハァー……落ち着いた」
事務所に戻ってソファに座った第一声がこれ。おっさんか。俺は脱力した花月の前を横切って、窮屈なネクタイを緩めながらクローゼットに向かう。
「待って」
「何や?」
足を止めて花月の方に向き直ると、目をキラキラと輝かせて、まるで『ええこと思い付いた!』と言わんばかりの表情をしとる。大体こういう時は、俺にとって天国と地獄が同時に訪れる。
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