ほんま、ひどいなー
「……あ、あのさ、かづっちゃん」
鈴音さんが乗って来た車に乗った。車は遠くに停めてあったから、結城が1人で来たってことにして鈴音さんはこっそり付いて行ったんやろう。おしゃべり野郎の言った通り。
鈴音さんは一言も喋らへん俺にかなり気を遣ってくれてるんやけど……なんか、喋る気にならんっていうか、さっきの結城のことばっか考えてしまう。
「今から行くの、かづっちゃんのお母さんのとこなんだ」
「……え……?」
「もちろん話は通してあるから。かづっちゃんのことも、かづっちゃんのお父さんのことも。これからのことも」
「これからって……」
「かづっちゃんのお母さん、今すぐにでもかづっちゃんと一緒に住みたいって。だから、今から連れてく」
「それ……結城が?」
「うん。分かってると思うけど、巽さんはかづっちゃんのためを思って、そうするって決めたんだ。自分といるより、お母さんといる方が幸せに決まってるからって。巽さんはほんとに、かづっちゃんのこと大切なんだよ。さっきはあんな風に行っちまったけどさ……どんな顔して何て言ったらいいか分かんなかっただけだと思う。だから、巽さんのこと誤解しないで欲しい」
鈴音さんの言葉を信じたい俺と、さっきの結城を忘れられへん俺。ぐっちゃぐちゃになって、訳が分からん。『そんなもんいらん』って言われた。俺が投げ飛ばされても、見てもくれんかった。初めて会ったときは、胸倉を掴まれただけで、右手を潰さなあかんとまで言っとったのに。
俺があいつらにヤられたって聞いたから? だから、俺のことほんまにいらんなったん? 汚いって思った?
「……っ」
涙が出た。泣いて初めて、自分がこんなにも悲しいんやって自覚した。結城に会いたい。けど俺が会いたいのは、俺に触れて、キスをしてきて、抱き締めて眠ってくれた頃の結城。そんな結城は、もうおらん。
「かづっちゃん……」
「縁を切られたっていうことですか」
「……うん」
「ハ……別れって呆気ないもんですね。親父も、結城も、いきなり俺の前から消えるんやもんな……ほんま、ひどいなー……」
涙が止まらん。みっともない嗚咽する声を抑えることもできん。まともに呼吸もできんくらい、大泣きした。鈴音さんは何も言わんと、ただただ運転をし続けて、俺を運んで行く。結城の依頼で、結城のそばから、俺を遠ざけていく。
泣き疲れて、ぐったりするくらい時間が経った頃、車が停車した。立派な家の前で。
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