そんなもんいらん




「……聞いてへんかったか?」


 抑揚のない声が響いた。感情が込もってない。結城はこの状況に、一個も動揺してない。


「そんなもんいらん言うたやろ。そいつが何されようが知らん。そんなんより、俺はお前らを本家に連れて戻らなあかんねや。分かるか? 本家で侠心会の会長が首を長うして待っとんやわ。……お前らを早うぶっ殺したい言うてなぁ。そのためだけに俺はここに来たんや」


 俺は、いらんの? ……そんなはずないって思いたいのに。だって、絶対助けに行くって言うてくれてから、まだ何時間かしか経ってないのに。
 せやのに、ほんまに俺がいらんもんみたいに投げ飛ばされても、結城は俺に一瞥もくれんかった。作業みたいにチンピラを殴って、蹴って、痛め付けて。動けんようにして車に押し込んだ。

 俺はただそれを倒れたまま眺めとった。
 縛られた手が痛かった。


「大丈夫か?」


 しばらくして俺を助け起こしてくれたんは、鈴音さんやった。……やっぱり来てたんや。おしゃべり野郎の思惑通り。何もかんも全部、あいつの計画通り。


「すぐに助けに来てやれなくて悪かったな。腕、痛かっただろ」


 ガムテープと手の縛りを解いてくれながら、優しくそう聞いてくれる。それが結城やったらよかったのに……俺はそんな風にしか思えへんかった。


「鈴音。俺はこのまま本家に向かうから、そいつ送って行ってくれ。金はあとで払う」

「はっ!? ちょ……巽さん!」

「頼んだで」

「巽さんっ! 待てって!」


 結城は行ってしまった。
 俺はただただ、呆然としとった。


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