うっさい黙れ!




「さて、何故君を連れて行かなかったのか。という話だったね」


 だあー! いちいち鼻につくのう! その喋り方!!


「君に遠慮があるのさ。結城巽は、君を以前のように扱えなくなった。何故なら、君の出生を知ってしまったから。借金を肩代わりしてやったという圧倒的な立場から君を縛り付けることが出来なくなったんだ。だって君が母親のところに戻りさえすれば、結城巽が出したお金なんてはした金も同然。結城巽は、その身一つで君を繋ぎ止めなければならなくなった」


 ……ん? 何か、まるで結城が俺のことを好きみたいな口ぶりやな、こいつ。


「だから、君の気持ちを無視して、野田組の本拠地に連れて行くなんてことは出来なかったんだろうね。大学の講義も受けたいだろうし、いつ戻れるかも分からない。それに、危険なのは関西か関東か、そう考えると関東がより危険だろうと考えるのが普通だ。万が一、結城組に危険が及んでも、ピンポイントで君を狙われるとは思わない。だって君の存在は隠されてるんだから。まさか数週間も前から周到に結城組をストーキングされてたなんて、いくら結城巽でも考えないでしょ」


 数週間前からストーキング……? 俺が、結城のとこで世話になり始めた頃からずっとってことか……?


「それにしても君の存在を知った時は嬉しかったなあ。一番崩せなさそうだった結城巽に綻びが生じたんだからね。それに、あの2人。結城巽に復讐したいだなんて居酒屋で酔って話してたんだよ? 馬鹿すぎて有難いよね。それでやっと、俺の望みが叶いそうなストーリーが出来上がったんだ。君にもお礼を言わなくちゃ……まあでもおあいこかな。君の母親に関しての情報は俺が意図的に掴ませてあげたんだし」


 何やねんこいつまじで。何でこんな……全部自分の思い通りにできんねん。 


「でも、君もよかったよね。結城巽に目を付けられたのは不幸だったけれど、借金の肩代わりはしてもらえたし、それに、お金持ちの母親まで見つけてもらえたんだもんね。君は人生において勝ち組ってやつになれる。さっさと結城巽からは離れた方がいいよ。ヤクザと関わっていいことなんか無いんだから」

「うっさい黙れ!」

「あ、やっと喋った。意外と気が長いんだね。俺の長話に延々付き合うなんてさ。何に腹が立ったの? 結城巽を害悪だと決め付けてる発言かな? でもそれって事実だよね。ヤクザなんて害悪以外のなにものでもない。君は何か思い違いをしてるんじゃないかな」

「思い違い……?」

「結城巽は悪人だ。人を騙し欺いて金を得てさらに多くの人を不幸に追いやる。そういう人間なんだよ。君は、結城巽に好意を持っているだろう? 恩人だと思ってるんじゃない? 率直に言うけど、馬鹿だね。君の借金の肩代わりだと言って使われたお金……どうやって得たものなのかな? そもそも君にのし掛かった借金は、ヤクザに……つまりは結城巽と同種の輩に負わされたものだったろう? 君が結城巽に抱いている感情はさ、ストックホルム症候群みたいなものさ。非日常的な環境に置かれて、結城巽という絶対的な存在に恐怖したはずだ。しかし、結城巽は君を大切に扱ってくれる。だから君は勘違いをした。結城巽は、本当は優しい人なんだってね」

「勘違いなんかやない! 結城はほんまに……」

「人殺しだよ? ……ねえ、別に俺は君を傷付ける気はないんだ。君は自分が好意を持っている人間を悪く言われて苛立っているかもしれない。だけど、俺の言っていることは何か間違ってる? ヤクザなんて悪人だ。どうして結城巽を善人にカテゴライズしようとするの?」

「結城は……あったかくて、優しくて、俺を大事にしてくれる」

「だからさ、それは君にだけなんだって。それで君が結城組に今後も居続けたとして、まともな人生歩めると思う? 無理だよ。おそらく就職すらもできないね。まあ君が死ぬまで結城巽が汚いことをして得た金銭で養われてもいいと思ってるんなら止めないけど。ていうか、俺が君の人生を心配してあげる義理なんて無いよね。しかも俺もそれなりに犯罪者だし。でもさ、君は選べるんだよ。真っ当な人生への道も。それもとびっきりの勝ち組人生。あえてヤクザのそばにいる意味が分からない」


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