イライラすんのじゃボケ!




「楽観視するのは良くないけれど、俺の計画は今のところ完璧に進んでいってるんだよ。最初に突いたのが、野田組ナンバーツーの侠心会だった。侠心会会長は結城巽の兄貴分で、実の兄弟以上に親しい間柄なんだって。さらに言えば、野田組若頭の野田狼。彼は侠心会会長を父親のように慕っている。そして、まだまだ若い。成熟してはいないんだ。年の近い結城巽と比べても彼の幼さは際立ってる。野田狼と兄弟同然に育った結城巽にとっては、心配な面も多いだろう。だから、そこを突けば結城巽は関西を離れるであろうことは容易に想像できた。……まあ、それが分かっても侠心会に手を出すなんて正気の沙汰じゃないけどね」


 お前の計画のあらましなんぞ聞いとらんのにペラペラ話しよって、このおしゃべり野郎が。ちゅうかそのインテリ臭い標準語聞いとったらイライラすんのじゃボケ!


「正気の沙汰じゃない。相手は頭の狂った奴だ。結城巽にそう思わせたかった。だからね、俺は侠心会の連中を刺しまくった。玄人っぽさが出ないようにするのは大変だった。かと言って非日常な動きになってもいけない。人を刺すなんてことは、それこそ食事や睡眠を摂ることに等しい行動のようにね、ナイフを振るうんだ。そんな奴がいたと聞けば、結城巽はこう思うはずだ。『じじいが襲われでもしたら……』と。ああ、じじいっていうのは野田組の五代目のことね」


 ……あ。
 確かに言うとった。覚えとる。コーヒーを飲みに来たって言うて店に来た日。店長と何や物騒な話をしとって……

『トチ狂った奴がじじいを襲撃せえへんとは限らへん』
『なんやかんや言うても、じじいと狼と清次さんは、家族やからな』

 とか、何とか。
 結城にそう思わせるために、最初から計算尽くやったんか。


「そうして五代目を守るため、侠心会会長への義理を通すため、野田狼を見守るために関西を離れて、結城巽は野田組の本拠地に向かう。この時、君のことを考えたはずだ。一緒に連れて行くべきか、置いて行くべきか。そばに置いておけば何があっても守る自信はあったと思う。でも彼はそうしなかった。何故だろう?」


 俺に分かるかい。そういう顔をした。


「君は、結城巽にとってはとても大切な人間だ。何故かは知らない。調べたけれど分からなかった。でもそんなことはどうでもいい。君の重要性は事実なんだからね。結城巽を調べ始めて知ったことなんだけれど、結城組の事務所周辺の建物ってね、全部結城組の所有物なんだよ。だから、君の存在を知る人間なんてほぼゼロと言ってもいい。大学に行く時に乗る車、国産の軽自動車だよね。あんなもの、結城組のテリトリーから出てきても、まさか組の人間が乗ってるなんて思われない。しかも護衛に付いている彼は下っ端もいいところで全く顔も売れてない。ずっと結城組を観察してたらさ、君を同業者に見られたくない。そんな確固たる意思が伝わってくるようだったよ」


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