何やこいつ!




「結城組にはもうこっちからの要求を伝えてある。そろそろ約束の時間になるよ」

「要求? 俺を人質に身代金とかか?」

「お金じゃないよ。言ったでしょ、あいつらの目的は復讐なんだって。だから、要求は『結城巽が1人でここに来ること』だよ。1人で来た結城巽を満足するまで痛めつけたいってわけ」

「はあ? 1人でなんか来るわけないやんけ」

「だから、1人で来なければ君を帰さないし、命も保証しないって言ってある」


 にっこり。そんな感じで笑ったそいつの顔を、どっかで見たことがあるような気が一瞬した。
 けどまあそんなんはどうでもよくて。


「アホやろ。俺の命と結城の身の安全、どっちが大事かなんか比べるまでもないわ。組の人らが結城を1人で来させる訳がないやろ」

「うん。だからね、俺の会いたい人が一緒に来るんじゃないかって思うんだ。もちろん、結城巽には内緒でさ。結城組の組員は結城巽を守らなきゃならない。でもきっと結城巽本人は1人で行くと言い張るだろう。君のためにね。だから、組員は便利屋に依頼するのさ。結城巽の身を守れってね」

「……便利屋?」

「君も会ったことがあるだろう? 鈴音と名乗る青年に。彼が俺の会いたい人。というか、本当に会いたい人の弟、と言うべきかな。ある人物の消息を追ってて、もう彼くらいしか手掛かりがないんだ」

「……え、てことは、鈴音さんに会いたいってだけで、こんなことをしたってこと?」

「会いたいだけなんて簡単に言うけど、こんなことでもしないと会えないんだよ。実際、この方法が一番現実的だったんだ。ちょうど駒になりそうな馬鹿が2人いたしね」


 はあー!? ワッケ分からん! え、てことは俺を捕まえた2人も、結城組もってか、野田組の人らも、みんな、こいつに踊らされとるってことやんけ。
 何こいつ、何やこいつ!


「……結城が来んかったら? それか組員いっぱい連れて来たら? 鈴音さんが来てへんかったら? お前どうすんの?」

「うん。まあ色んなパターンを考えてはいるけど、実際その時になってみないと分からないね」


 あっけらかんとしたそいつの顔に腹立つ。結城が大群連れて来たらええのに。こいつの思惑から外れるようなことしてくれたらええのに。
 そしたら俺が言ってやる。

『ざまあ見さらせ』

 って、な。そんとき俺が無事でおるかは分からんけども。


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