どつき回すぞ
「君に会いに来た青年に、心当たりはある?」
「無い……ですね。俺が出社してすぐってことは、俺の行動を把握しとったってことでしょう。もしくは尾けられてたか」
「うん。君が建物に入るのを確認してから、受付に行ったらしいからね」
「ほんまに危険な人物やなかったんですか?」
「そうだね。今は結城と会議室にいるんだけど……」
「は!?」
「何か結城が興味持っちゃったみたいで」
「持っちゃったやないでしょ! あーもう!」
俺は即座に会議室に向かった。どの会議室か聞いてないけどまあいい。小さいとこから行けばすぐに当たるはずや。
一番小さい会議室のドアをノックもせんと開けた。そしてそこにおったんは、組長と、山下やった。
「山下……」
「風見さん! あーよかったです。来てくれて! ということは、許していただけるんですよね?」
「おう。ええぞ」
何の話や。山下は組長に何を許してもらったんや。ていうか何で山下がこんなとこにおんねん。お前今朝出て行ったんちゃうんか。何で俺に会いに来とんねん。
ちょっとした混乱状態で、ドアノブを掴んで半端な位置に立ちぼうけの俺の後ろから、かしらの声がした。
「賭けは不成立です。風見は訪問者が山下くんだと気付いてここに来たのではなく、不審人物と2人きりでいる結城を心配して来ただけなので」
「か、賭けってなんですか? 山下も、何しに来てん」
「あーあー、もうええ。俺がええ言うたらそれで話は終いやろ。山下はうちの組に入れる。もう決めた」
めんどくさそうに組長がそう言い切った。なんやそれ。ありえんやろ!
俺はようやくドアノブから手を離して、一直線に山下の方へ向かった。ヘラヘラしとる山下に腹が立つ。胸倉を掴んで思い切り引き寄せた。
「お前何考えとんねん! 組に入るやと? 頭沸いとんか、アァ!? 半端なことしくさってどつき回すぞこのボケが!」
「半端なことなんかしてません! 言うたやないですか。俺は一生風見さんを支えるって。……何でもします! 風見さんのそばに置いて下さい! お願いします!」
……何でやねん。俺がお前に何をした?
お前の人生賭けるほど、俺はお前に何かをしてやったか?
胸倉を掴む俺の手から逃れて、床に頭を擦り付けるように土下座までする山下に俺は困惑して、何も言えへんかった。
「お前は何とも思ってへんかっても」
不意に組長の声がした。
「ほんのちょっとのことで救われた気になることもある。山下はお前の無意識の行動に救われた。それだけのことや。本人がそうしたい言うとんねやから、そばにおるくらい許したれや。事務所も建てなあかんしな」
「別に建てなければならない訳ではありませんよ」
「アホ。建てる言うたら建てるんじゃ」
組長とかしらが事務所新設のことで言い合いを始めても、山下は姿勢を変えることもなく、じっと頭を下げ続けとる。
俺はもう何か諦めたような気になって、というか俺の一存では動かせへんやろうし、ひとまず頭を上げさせようと山下の肩に手を置いた。
- 128 -
[*前] | [次#]
[戻る]