何やこいつ。




「痛い?」


 後ろで縛られた俺の手を見ながら、男はそう聞いてきた。そもそもお前らが俺をこんな目に遭わせとんやろが。気遣う振りなんかしたって俺は気を許さへんからな。


「痛くなさそうに見えるか」

「痛いよね。聞いた俺が馬鹿だった。お腹は空いてる? 嫌じゃなければ俺が食べさせるよ。嫌なら、動物みたいに食べてもらうしかないけど」


 山下さんの手を刺したんはこいつ。そのあと俺を追ってきたんはこいつ以外の奴。ってことは、山下さんがどうなったかは、こいつに聞くしかないわけで。


「山下さんは、無事?」

「ああ。彼は右手を負傷しただけだよ。君を攫うのを邪魔されたくなかったから、殴って昏倒はさせたけどね。命に別状はない」

「ほんまに?」

「絶対とは言い切れないよ。あのあと誰も救助に行かずにずっと出血したままだったとしたら、危ないかもしれない。だけど、助けは君が呼んだんだよね? あの状況で彼を見捨てたりしないでしょ?」

「…………」


 俺はあの時、山下さんを見捨てた。ナイフで刺された山下さんを見て、恐くて、自分だけ逃げた。
 山下さんは、俺を恨んでるかな……。俺はあの時、どうするのが正解やったんやろう。


「君が思い悩む必要は全くないよ。悪いのは俺達だし、彼は君を守るという責務を果たしただけだしね。きっと彼の方が後悔してるはずだよ。意識を取り戻したら自分を責めるだろうね。君を守れなかったって」

「山下さんは悪くない!」

「うん。戻ったら、そう言ってあげて。とにかく君のことはちゃんと無傷で帰すつもりだから、ひどい処分は受けないでしょ」


 何やこいつ。何を言うとんねん。何のつもりやねん。俺を無傷で帰すんやったら、何で山下さんにはあんな酷いことをしたんや!
 何で……こんなことになったんや。


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