まるで映画やな
翌朝リビングに戻ったら、やっぱり山下の姿はなかった。ほんまのちょっとだけあった洋服類も全部、洗濯物まで何もかも山下のものはなくなっとった。
俺が置いた金だけがポツンとそのままで、それがまた山下らしくて、フッと笑ってしまったけど、その次の瞬間に虚しさに囚われた。
「自分でそう仕向けたくせにな……」
思わず零れた独り言が、これまた虚しさを助長させる。とにかく仕事に行こうと、バスルームに向かった。
脱衣場で服を脱ぎながら、最近は毎日山下が洗濯してくれとったのに、これからはまたクリーニング屋に行かなあかんねやな。とか考えて、どんだけ頭ん中山下でいっぱいやねんと自分で自分にツッコんだ。
メシもまた外食になって、この部屋はまた寝るためだけのものになる。たったの数週間で、山下の存在が俺にとってでかいものになっとったことを実感した。
せやからって、ここに山下を置いて何になる? これでよかったんや。山下のためや。そう思わなしゃあないやんけ。
「おらんなってから気付くとか、まるで映画やな」
山下がおらんなって寂しい。これが山下を好きやということになるんなら、俺は山下がめっちゃ好きなんやろう。
それでも俺は、あいつに好きやと伝えることはできん。まず第一に、極道者に関わってええことがある訳がない。せっかくええ家に生まれて、料理の才能かってあるのに、いざ店構えて『あの店ヤクザと関係あるらしいで』なんか言われてみい。客が来んなる。
それに、俺はやっぱり、男やから。男でおりたいから。同じ男に女みたいな扱いは絶対にされたくない。
結局は、俺は山下よりも、俺自身のプライドの方が大事なんや。
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