支えますから
「そんな離れんでもええやないですか。無理やり押さえ付けて犯そうなんか思ってませんし」
「やっぱ俺がそっちなんかい! 男に抱かれて極道やっとれるかボケ!」
「そんなんしませんから。脳内以外では」
「脳内でもやめろ!」
「とにかく俺は、風見さんのそばにおりたいんです。俺の一方通行でもええんです。一生、風見さんを支えますから。だから、そばにおらしてください」
この数週間で山下に何が起こったんか、俺はそれが謎で。ちょっと前に変な女にカモられとったような奴が、何で選りにも選って俺が好きとか言う話になんねん。
迷惑か……と自問すれば、迷惑という訳でもない。正直、男に好きや言われて心底嫌がってない自分も謎や。
じゃあ山下に抱かれるか……っちゅう話になったらそれは別で。無理やろ。そんな女みたいな扱いされてたまるかい。死んだ方がマシや。
そもそも俺と山下の論点にかなりのズレがあるんちゃうんか。俺は山下には家戻るなり何なりして、ちゃんと料理に携わるような仕事をすべきやと思う。俺の家政婦みたいなんやのうて。
山下はただ俺のそばにおりたいとしか言わん。何やそれ。料理はどないなってん。俺に食わせるだけでほんまにお前は満足なんか?
俺は、お前に間違った方向を向かせてしまったんちゃうか?
「山下。俺はお前の気持ちを受け入れへんぞ。もっと自分の将来ちゃんと考えろ。俺のそばにおりたいてなんやねん。脱線せんとまともな道に進めや。お前には才能があるんやから」
「風見さ……」
「お前がここにおるんは、お前にとってええことやない。せやから早う出て行け。しばらくは困らんくらい金も渡すから」
俺が発した言葉は、ポロポロ零れるみたいに勝手に漏れた。それが俺の本心からの言葉やったんか、自分でも分からん。
俺の視線にしたって、ただ呆然と目が山下に向いとるだけで、しっかりと山下を捉えることはなかった。
目の前におる山下の表情も分からんくらいに、自分の意識がどっかに行ってしまったみたいや。どうしようもなく虚しい。
山下がさらに何かを言う前に、俺は財布から金を出して、寝室に逃げた。きっと次に寝室から出る頃には、山下はおらんやろう。
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