迷惑ですか?




「……へぇ。これめっちゃうまいわ」

「そらそうですがな。こっちを本業にしたいくらいですもん」

「ほんで? お前これからどないすんねん?」


 結城組がバックにおるなんてアホみたいな嘘をついとった輩は、山下の協力もあって割とすぐに捕まえられた。
 組長が処分は俺に任せると言ったので、今後二度と極道に関わりたくないと思えるように十分お灸をすえたった。まああいつらも、まだ相手が俺やっただけマシやろう。

 だからとりあえず、山下を俺の家に置く理由はもうない。


「これから……」

「何や、こっちを本業にしたいって今言うてたやんけ」


 山下が作ってくれるメシには必ずデザートが付いとって、もちろんおかずなんかも美味いんやけど、そのデザートの方が俺は毎回楽しみで、ほんでめっちゃ美味い。
 見たこともないような可愛らしいて、オシャレな感じのするデザートは、山下にとっては他の何よりも作って楽しいものらしい。

 それを自分の店で出したいという考えを大将である親父さんに却下されて、家を出た。ほんでそのままフラフラして、今は極道もんのメシをせっせと拵えとる。何しとんやろって自分でも思てるやろう。


「ここでこのまま、風見さんのメシ毎日作らせてもらえませんか?」

「……は?」

「俺、風見さんに毎日メシ食うてもろたら、なんか満足っていうか……迷惑ですか? 金も今貰ってる額は多すぎるくらいで、もっと減らしてもらっても構いませんから。せやから、ここに、このままおらしてくれませんか?」

「いや俺が迷惑とかそんなんやのうて、お前はそれでええんか? ちゃんと考えろ。普通に考えて、親父さん説得した方がええぞ」

「無理ですて。実は俺、家出て3ヶ月くらい経った時、いっぺん戻ったんですわ。戻ったっちゅーか、様子見に行っただけなんですけどね。そしたらもう、俺がおったとこには弟がおって。あいつは親父を尊敬してますから、言われた通り何でもやるし……せやから、俺なんかもういらんのです」

「そしたらお前、他の店とか色々あるやろ。何なら自分で作ってしまえ。好きなように好きな店作ったったらええやんけ」

「そんな金ないですって」


 何言うとんねん。
 まずそう思った。まだ若いし、ケーキ屋やら何やらで修行しながら金貯めたらええやろが。何で最初から諦めとんねんこいつ。
 他人事やけど、なんかがっかりした。


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