そんな怒らんでも




「組員て……ヤクザ屋さんってこと?」

「そうは見えへんか? これでももう十年近くこっちにどっぷり浸かってんねんけどな」

「え、何歳?」

「もうじき30になる」


 驚きの表情で俺の顔をまじまじと見てくる。まあ、実年齢より上に見られることはほとんどないけど、そこまで驚くほどでもないと思う。いや、思いたい。


「そしたら俺めっちゃ失礼な態度取ってたやん! 2、3個離れとるくらいやと思ってて、ツレみたいな態度取ってすんませんでした!」

「そんなんは別にええけど。お前なんぼやねん?」


 俺の質問に対して、一瞬固まった。それからおずおずという感じで俺の顔色を伺うように聞いてきた。


「一応聞くんですけど……年齢のことですよね?」

「は? それ以外に何があんねん?」

「それはほら……1回なんぼか、とか」

「アホか! そのネタ二度と蒸し返すなボケ! 男は無理や言うたやろが! それに、金払ってそんなことするほど飢えてへん」

「あはは、すんません。そんな怒らんでもええやないすか」

「ホモや思われて冷静でおれるか」


 笑うと顔の傷が痛むらしく、俺が貼ったガーゼの上からそっと頬に触れる姿に見入ってしまう。その一方で『ホモや思われて……』と口では言うんやから、訳が分からん。
 何でこんなんに色気みたいなもん感じなあかんねん。


「すんませんって。俺の年は21です。で、名前は山下将人です。今日はほんまに助かりました。ありがとうございます」

「山下な。俺は風見や。結城組の名語ったやつを捕まえんのに協力してもらうんはもう決定事項として。お前の身体が空いとる時間だけ教えといてくれるか」

「24時間365日ガッラガラですよ」

「あ? どういうこっちゃ」

「つい最近までは実家の店手伝うてたんですけど、まあ意見の相違っちゅうやつで、家出たんですわ。せやから今は宿無しの文無し。お先真っ暗っす。あはは」

「笑い事ちゃうやろ。実家の店って何やっとんねん?」

「『夕霧』っていう食べもん屋なんすけどね。大将が……あ、親父のことっす。大将が頑固で偏屈なクソジジイでね、ガーッと喧嘩になってそれっきりですわ」


 あっけらかんと話す山下の表情はあんまり読めへんけど、そんなに簡単な話やないことは察した。『夕霧』いうたら老舗の高級料亭やぞ。しかも代々世襲で大将を継いでるんやから、次の大将はもしかせんでもこいつやんけ。


「お前ええんか、そんなんで?」

「正直、何やってんねんろーって感じはします。けど、あそこやないんですわ。俺のやりたいことはうちにはない。かと言って、よその店で働くのもなんかちゃうような気がして……ほんま、甘ちゃんですわ」

「……フラフラやることないんやったら、俺の飯でも作ってくれや。金なら出すで」


 ただの気まぐれ。さっきまで追い出す気でおったのに、今度は惜しいと思っとる。
 とりあえず、結城組の名前を汚した連中をどないかするまではここに置いておくのもええやろう。そんな風に自分の感情とは別に理由を作った。


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