男は無理やで
自宅に帰る途中、何でか運悪く連続で赤信号に捕まって停車するのが、イライラ通り越して次はどうやろうと気になるくらい続いた頃。交差点近くの路地に座り込んどる人間が目に入った。
普段の俺やったら、そのままスルーした。そんなトラブルの元になりそうなもんは見て見ぬ振りして忘れてしまう。けど、今晩だけは運悪いついでに見てみよかと思った。
「……先言うとくけど、俺金持ってへんで」
近寄るとダルそうにこっちを向いて、俺が何も言わんうちに迷惑そうにそう言われた。
「アホか。ボロボロのガキからたかるほど金に困ってへんわ。どないしてん? たちの悪いカツアゲでもされたんか?」
「知らん。変な女が声かけてきてメシ食わしてくれる言うから付いてって、誘われたから一発ヤって、そしたらその女の男やいう奴がイチャモン付けてきよってリンチや。わけわからん」
「えらいたちの悪いもんに引っかかったもんやな」
「結局メシ食うてへんし、エッチも気持ちええもんちゃうかったし、最悪やでほんま」
殴られて腫れた頬を歪めて笑ったそいつの唇から、また新しく血が滲んだ。いてぇと言いながら血を拭う仕草に何でか意識が集中する。
「すぐそこに車停めとるからついて来い」
「は?」
「うちで手当てしたる」
「……いや。いくら綺麗な顔した兄ちゃんでも、男は無理やで俺」
「アホか! 俺かて無理じゃ!」
「何や、そっち系の人なんかと思って焦った」
「…………。立てるか?」
「何とか」
自然と立ち上がるそいつを補助する自分の腕。ついでに肩まで貸して車まで連れて行った。そんな自分の行動に自分でもちょっと驚いた。
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