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 皮膚と皮膚がぶつかる音が響く。私もあの中に入って暴れたいという気持ちをなんとか抑えて、ボーズに言われた通り、その場でただ立って見ていた。
 もちろん暴力なんてものはいけないことよ。それは重々承知してる。殴られることを覚悟していない人や、女性や子供に暴力なんて何があってもしちゃいけない。
 だけどね、この高校じゃ喧嘩なんて日常茶飯事のごくありふれた出来事なの。相手だって乱闘になることを全く意識してないわけじゃない。まあ、私達ならただ黙ってからかわれるのを許容するだろうという甘い考えはあったかもしれないけれど『暴力反対』なんていう生徒はいないわ。教師もね。

 私達をからかった人達の犯したミスは、ボーズを見くびったこと。ボーズは喧嘩が強くないだろうと勝手に思ってしまったから、からかったりできたのね。
 OVERFLOWというチームをこの高校で知らない生徒はいない。だって強いから。そのチームに所属していると知りながら、私達をからかうのは、私がオカマで、ボーズが物静かだからでしょうね。

 ボーズは強い。OVERFLOWの中でだって、上から数えた方が早いくらいには。少なくとも、この高校で大きな顔してるマッチやハリーより強いのは確実ね。
 だから、口や鼻から血をダラダラ流しながら倒れる奴も、痛みに身体を丸めてうずくまる奴も、現在進行形で殴られてる奴も全部みんな自業自得。


「今度俺と、っつったのお前だろ? エミリーでゲスいこと想像してんじゃねぇよ。お前みてぇな奴は似合ってもねーケバい化粧した香水くせーバカ女とサルみてぇにヤッてりゃいんだよ。二度とエミリーに汚い言葉を吐くな。次やったらこんなもんじゃ許さねぇ」


 キレると饒舌になるボーズは、さらに声をワントーン落として続けた。


「……チンコ踏み潰して金玉すり潰すぞ」


 ひゅん。私にも付いてるその部分が縮み上がる。ボーズにしこたま殴られた奴らの顔も、野次馬していた奴らの顔もみんな青くなった。
 そんな周りの奴らを一睨みしてから、汚れた手を制服のスラックスで拭いつつ私の方へ歩いてくるボーズが身悶えるほどかっこいい。でも、そんな風に考えていると悟られないように、普通の笑顔で迎えた。


「帰りましょっか」

「ごめん、待たせて」

「いいの。ありがとう、私のために。すごくかっこよかったわ」

「違うよ。ただ俺がムカついたから殴っただけ」


 そう言うボーズの心はほんとに綺麗で。
 こんな風に守ってもらった私も、ボーズとエッチなことしたいと考えてるなんて知られたら、きっと嫌われちゃうだろうな。
 ほんと、不釣り合いね。


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