05
大輔は緊張していた。手にビッショリかいた汗を制服になすりつける。そして、口の中の唾液をかき集めるようにしてから飲み込んだ。
昨日と同じ時間の電車に乗って、昨日と同じ車両の同じ座席に座った。彼にもう一度会いたい。いや、もう一度顔を見るだけでもいい。友達と一緒でも構わない。自分に向けられたものじゃなくても、また彼の声を聞きたかった。
「こんにちは」
右から彼の声がした。大輔は瞬時に声のした方を見た。
彼がいた。大輔のすぐそばに立っていたのだ。ずっとホームをまだかまだかと半ば諦め混じりで見ていたのに、いつの間に。と不思議に思ったのも束の間。そうだ。声をかけられたのだったと思い出した。
「こ……ん、ちわ」
どもった。
まともに挨拶も返せなかった。ジワジワと熱を持ち始めた赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、大輔は顔を伏せた。
「……あの、隣、空いてますか?」
「あ、ああ」
座席に置いていた鞄を慌ててどける。もしまた彼がたくさんの荷物を抱えていたら、いや抱えていなかったとしても、確保しておきたかった。声をかける口実が欲しかったから。
「ありがとうございます」
それには何も応えられなかったけれど、満足していた。
また会えた。
彼の隣は、なぜか心地良かった。
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