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「……俺、ヤなんだよ」

「なにが」

「好きとか、そーゆーのって言ってんじゃん」


 灰司が柏原と目を合わせた。その目は不安に揺れているように見える。


「人に想われるのが嫌なのか?」

「違う。……俺がせんせーを好きになるのがヤなんだよ」

「おい、お前は俺を好きになるのか?」

「そーゆーのが言いたいんじゃなくて! ……もし好きになっちゃったとして、俺はせんせーが好きなのに、せんせーが俺を好きじゃなくなるからヤダっつってんの!」


 柏原の脳内に、クエスチョンマークがいくつも浮かんだ。


「……何で俺が冷める前提で話してんだ?」

「今までずっとそうだったから」

「過去の女と俺を一緒にすんな」

「とにかくそーゆーの俺信じないし。俺、せんせーのこと好きになんないから」


 柏原は、そう頑なに言う灰司が可愛くて仕方がないと感じた。本当は人に想われたくて、想いたいくせに、傷つきたくなくて拒絶しているのだ。


「ハイジ。俺は今、お前が好きなんだよ。お前を初めて見た日から1年経つが、ずっと好きだった。これからも好きだろうよ。たぶんな」

「たぶんじゃん」

「先のことなんて知るかよ。でもよ、そうなるかも分かんねぇ未来にビビられて、今の俺の気持ちまで否定されたくねぇんだよ」


 灰司は申し訳なさそうな顔になる。


「俺を好きになる可能性があるなら、そばにいさせろ。何年かけてでも俺の気持ちを信じさせてやる」


 柏原を好きになる可能性。それがあることは灰司自身分かっていた。柏原に触れられて、キスをされて、嫌悪感など微塵もなく快感だけを追ったばかりなのだから。


「……分かった」


 灰司は承諾した。
 柏原はニヤリと笑った。


「……言ったな?」


 灰司の顔が引き攣る。先程までの必死な表情はどこへやら、柏原はいつもの俺様に戻っていた。


「ハイジ。もう離してやらねぇ。絶対逃がさねぇ。俺が死ぬまで……な?」

「げ……」


 未来が受難か幸福か。それは灰司の心次第。


end.
2012.01.23 完結


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