13
「……俺、ヤなんだよ」
「なにが」
「好きとか、そーゆーのって言ってんじゃん」
灰司が柏原と目を合わせた。その目は不安に揺れているように見える。
「人に想われるのが嫌なのか?」
「違う。……俺がせんせーを好きになるのがヤなんだよ」
「おい、お前は俺を好きになるのか?」
「そーゆーのが言いたいんじゃなくて! ……もし好きになっちゃったとして、俺はせんせーが好きなのに、せんせーが俺を好きじゃなくなるからヤダっつってんの!」
柏原の脳内に、クエスチョンマークがいくつも浮かんだ。
「……何で俺が冷める前提で話してんだ?」
「今までずっとそうだったから」
「過去の女と俺を一緒にすんな」
「とにかくそーゆーの俺信じないし。俺、せんせーのこと好きになんないから」
柏原は、そう頑なに言う灰司が可愛くて仕方がないと感じた。本当は人に想われたくて、想いたいくせに、傷つきたくなくて拒絶しているのだ。
「ハイジ。俺は今、お前が好きなんだよ。お前を初めて見た日から1年経つが、ずっと好きだった。これからも好きだろうよ。たぶんな」
「たぶんじゃん」
「先のことなんて知るかよ。でもよ、そうなるかも分かんねぇ未来にビビられて、今の俺の気持ちまで否定されたくねぇんだよ」
灰司は申し訳なさそうな顔になる。
「俺を好きになる可能性があるなら、そばにいさせろ。何年かけてでも俺の気持ちを信じさせてやる」
柏原を好きになる可能性。それがあることは灰司自身分かっていた。柏原に触れられて、キスをされて、嫌悪感など微塵もなく快感だけを追ったばかりなのだから。
「……分かった」
灰司は承諾した。
柏原はニヤリと笑った。
「……言ったな?」
灰司の顔が引き攣る。先程までの必死な表情はどこへやら、柏原はいつもの俺様に戻っていた。
「ハイジ。もう離してやらねぇ。絶対逃がさねぇ。俺が死ぬまで……な?」
「げ……」
未来が受難か幸福か。それは灰司の心次第。
end.
2012.01.23 完結
- 13 -
[*前] | 次#
[戻る]