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濡らしたタオルで自身の身体を拭く柏原を、灰司はぼうっとした目で見つめていた。
そして、灰司が制服を身に付けている間に柏原はコーヒーを煎れ、向かいに座るよう促した。しばらく続いた沈黙を破ったのは灰司だった。
「……せんせー」
「なんだ?」
両手で持ったカップに視線を注ぐ灰司。
「せんせーは俺が好き?」
「ああ」
「じゃあ、俺にエロいことしたいっていつから思ってた?」
「……春に、教室でお前を初めて見た瞬間から」
柏原の真剣な瞳が灰司を射抜くように見つめる。それから逃れるように灰司は横に顔を逸らした。
「それってヒトメボレじゃーん」
「ああ。そうだ」
「……やめてよ」
間の抜けた声を出して茶化そうとした灰司の言葉にも、柏原は真摯な声で答えた。それすらも否定する言葉を発し、揶揄するような表情になる。
「俺ぇ、好きとか? そーゆーのめんどいしー。誰かと付き合うとかヤなんだよねー」
「それで?」
「だからさ、せんせーもそーゆーのやめてよ。大体俺ら教師と生徒ってやつじゃーん? だめなんだよそれってー」
「関係ねぇな」
「ジョーダンじゃねぇってマジでだめだってのー」
柏原の拳が机に振り下ろされた。ダンッ! と大きな音が鳴り、灰司は身体をびくつかせた。
「……何を言ってもいいがよ、何でもいいから、俺の目を見て言え」
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