キスから始めよう


「まーた呼び出しかよー」

「さっさと行けよ」

「篤志ー、恐ぇから付いてきてくれよー」

「どこの世界に告られんのにダチ連れてく男がいるんだ」

「だって俺、女子って苦手なんだよ。キャピキャピしてさー。こないだまでぺったんこだったっつーのにシャツのボタン何個も開けて谷間強調してんだぜ? 別に見たくねーよ。何だあれ。何で出来てんの? 脂肪?」

「ばーか。夢と希望でだよ」

「え、篤志。お前っておっぱい好きだったの?」

「嫌いな男がいるのか」

「何だよなんだよ。1人でさっさと大人になりやがってチクショー。行ってくらぁ!」

「おう、行ってら」


 小学生の時からずっと仲が良い友人の知明は、最近背が急激に伸びて女にモテるようになった。少し前までは下だった目線が同じくらいになって、俺は初めてその線の細さに気が付き、その身体に触れたいと思っている自分の気持ちが何なのかを知った。
 告白されに行った知明の様子を屋上から眺めて、その表情を見る。そして『大丈夫。まだ大丈夫』と安心し、自己嫌悪に陥るのだ。

 フェンスに凭れて、まさにその自己嫌悪に浸っていた時、ポケットで携帯が震えた。

『まだ屋上いる? 今から俺も行く』

 知明からだった。慌てて知明がさっきまでいた場所を見たが、もういなかった。
 気付かれていたのか。告白されている所を見ていた事を。


「あーつし。俺やっぱ女子って苦手だわ。それよかさ、さっき下からお前のこと見つけて思ったんだよな。やっぱ、お前ってかっこいいな」

「……は?」

「何か考え事してた? 真剣な顔して立ってるだけなのにさ、俺しばらく見つめちゃったよ」


 俺は何も考えず、触れてみたいと思っていた身体を抱きしめた。そして首筋にキスをし、耳たぶ、頬、唇にキスをした。
 勢いだけでした行為に、何と言っていいのか分からない。


「……えーっと……」

「キス……した?」

「……した」

「俺、初めてなんだけど」

「俺も初めてだよ」

「嘘つくなよ。何か慣れてた」

「嘘じゃねーよ。つか何だこの会話」


 重要なのは、初めてかどうかなんかじゃない。
 重要なのは……


「俺ずっとお前が好きだった。おっぱいには夢と希望が詰まってる。けど、俺の胸には知明への想いだけが詰まってる。それだけだ」

「順番がおかしいんだよ。まず告白。それからデート。手を繋ぐ。抱き合う。そのあとがキスだろ」

「知明が好きだ。今からデートをしよう。そんで映画を手を繋ぎながら見る。見終わったら飯を食う。それから帰って俺の部屋で抱き合って、それでまた、キスをしよう」

「明日は休みだし?」

「そうだ。幸運なことに」

「よし乗った。俺も篤志が好きだよ。映画を見て、飯食って、お前ん家でキスしよう。ついでに泊めて」

「了解」


 俺達は並んで歩き出す。教室に鞄を取りに。その足取りが覚束ないのは、この先に起こることに期待をしているせい。


「あー、やべえ。ドキドキする」

「俺もだ」


 まずはキスから始めよう。
 この想いはそれで伝わる。





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