悩める男
女の子って可愛い。
柔らかくて、なんか良い匂いがして、肌もスベスベで。一生懸命メイクで良く見せようとしてるのも微笑ましくて、すげー可愛い。
色んな女の子と遊べるだけ遊んで、いいことだけして、とっかえひっかえして。それが楽しいって心から思ってた。
その考えが少しだけブレ始めたのは、大学の入学式の日。同じ学科にいた、恐ろしく美形な奴と喋った瞬間から。
「俺、霧島淳平。お前は?」
「竹下紘基」
「んじゃお前のことコウって呼ぶわ。いいだろ?」
「いいよ。じゃあお前はじゅんぺーね」
想像とは違って、意外と気さくな奴だった。俺的には、こいつと一緒にいたら女の子とこれまで以上に知り合えるかなーっていう下心だけだったから、いい奴ならそれはそれでラッキーだなと思った。
「つかさー、お前まじイケてんな。すげーモテんだろ?」
「女なんかうざいだけだし。寄って来られても迷惑だよ」
「は……それまじで言ってんの?」
「なんで嘘付かなきゃなんないの。あんな鬱陶しいもん他にないよ。すげーうざい」
天変地異っていうの?
女の子を可愛いって思わない男っていんの!? って、とにかく驚いた。
コウはまじで女の子に興味がないみたいで、ほとんど無視。それかやることだけやってポイって感じ。気持ちがないだけ俺よりひどいって思った。でもコウに無視られた女の子は俺がおいしくいただけるので、コウ様々。超感謝。
そんな感じで女の子と遊びまくって1年経って、サークルに3人下級生が入った。その内の1人のユキって奴がまた、俺の考え方を変えた。
「ユキさー、何で女の子に誘われても乗らねーの?」
「あ、俺好きな人いるんすよ。だから女性と特別な関係になるつもりないんすよね。霧島さん、いつも合コン誘って下さるのに申し訳ないっす」
「好きな子って、彼女?」
「まさか! ただの片思いっす。この大学の先輩なんすけど。俺、高校の時から好きで……追っかけて来ちゃったんす」
酔っ払って普段よりも饒舌になったユキが幸せそうな顔をして語った。
なんだそりゃ? 好きなら好きだと伝えて付き合えよ。せっかくイケてんのにもったいねー。俺の感想はそんな感じ。でも、ただ想ってるだけでこんな表情になれるユキが羨ましいとも思った。
それから最後に。現在進行形で俺の頭をおかしくさせる奴が、下級生3人の内の1人で、新見成章。俺が付けたあだ名は、『にい』み『な』りあき……で、ニーナ。結構俺は気に入ってる。
このニーナが曲者で、チャラそうっつーかチャラいんだけど、別に顔は良くなくて。とりあえずバカそうで、つか喋ってもバカで。コウやユキみたいな正統派イケメンとは違って、ただの雰囲気イケメンなのに、なんか俺は可愛いと思ってしまう訳だ。
男だし、顔も良くないし、バカだし、自己中だし、寝相も寝起きも最悪だし、もうまじでいいとこなんか1つも思い浮かばないのに!
俺はなぜかニーナが可愛くて、ワガママ言われてもしゃーねーなーって許しちゃう。
えーなにこれ。
という訳だ。
「何でそんな俺の顔じっと見るんすかー?」
なぜか俺の部屋によく来るニーナが、俺のベッドに寝転んで読んでた漫画を置いて、俺にそう尋ねてきた。そんな見てるつもりはなかったんだけど、言われてみればガン見だった。
「今日お前、特別ブサいなーって」
「やっぱ? めちゃくちゃ朝から顔むくんでるんすよー。ねーわー。まじショック」
「超一重じゃん」
「まじそれっすー。ユキみてーな顔になりてーっす。あいつ超目キレイなんすよ。不公平だわー」
「まあユキはな。あだ名ジュノンにしてやろうかと思ったくらいだし」
「竹下さんもっすよー。なんだあのイケメン。ユキと並んだら2人目立ちすぎっしょ。つかあれで女に興味無いって言うんだもんなー。じゃあ顔交換してくれって感じじゃねっすかー?」
「俺は俺の顔でいいし」
「でたー! はいはい。霧島さんもイケてますよ。まー竹下さんとユキには及ばないっすけどー」
「バーカ。そんなの好みの問題だろ。コウとユキよりも俺のが勝ってるとこがあんだろが」
「え。どこすか?」
「女の子が好きなとこ」
は? って顔になるニーナ。つーかそれがどうしたって感じって隠そうともしない生意気な表情をしている。例えばコレがニーナ以外の奴だったら、たぶん腹が立つんだろうな。
「そんなんだったら俺が一番だっつー話っすよ。俺、女の子ちょー好きだもん。まーでも女の子大好きだけど一緒にいると疲れる時あるからなー。淳平さんとならいくらでも遊んでられんのに」
「じゃあ俺がニーナにキスしたら怒る?」
「淳平さんだったら俺ぜーんぜん余裕でできますよ」
今度は俺が、は? って顔になる番だった。てか聞いた俺の方こそニーナとキスとかできるか分かんねーんだけど。だったら何で聞いたんだよって感じだけど。口が勝手に動いたんだよ。何か知んねーけどさ。
「んじゃ女の子に相手されなくなったらニーナに抜いてもらお」
「相手にされなくなる訳ねーって自分で分かってるくせに」
「お前と違って顔がいいからなー」
「まじうぜーし。俺だって可愛いとか思われたりするもんね」
そうだな。例えば俺とかにね。
つか、まじで俺が女の子に相手されなくなったとして、お前は本気で俺の相手してくれんの? とかって考え始めた自分を自分で止める。
やめとけって。それ以上考えて何になんのって。俺といんのが楽とか言ってるニーナも結局は俺なんかより女の子が好きなんだっての。
あーもー。まじでこいつのせいで俺の頭おかしくなってる。おかしいんだって。おかしくなかったらこんなこと絶対考えない。
ニーナが女の子と遊ばなきゃいいのに。俺とずっと一緒にいりゃいいのに。
……なんて。
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