大嫌いと言って
男にしては低い背に、中性的な顔立ち。サラサラの髪、香水かなにかの甘い匂い。
三木倫太郎を形作る全てに、俺は魅了されてしまう。同じ男なのに、愛おしいだなんて思わされてしまうのだ。
「……何ですか。用が無いならこっち見ないで下さい」
「うーわ、三木は相変わらず俺に冷たいねー」
「小野さんにはこのくらいでちょうどいいんですよ」
「言うねー」
その通り。優しくなんてされたら、きっと調子に乗って手を伸ばしてしまうだろう。その甘い匂いのする身体に触れて、捕まえて、ずっと放せなくなってしまいそう。
「で。用はあるんですか、無いんですか」
「部室にこうやって2人でいるのって、最近なかったなーって思って見てた。ちょっと前までは、ずーっと俺らだけだったのに」
「部員が増えなきゃ部室没収って言われたんですから、仕方ないでしょ。いつまでも自分の部屋みたいに好き勝手出来ると思わないで下さいよ」
「それもそうか。……でも、ま。増えて良かったのかもね」
1回生の時に入部して、2回生に上がるまでの間に上回生がいなくなった。つまり、俺だけ。2回生になった春、新入生を勧誘したけど、入ってくれたのは1人だけ。
それからの1年間は俺と三木だけがこの部室にいた。畳を持ち込んだり、こたつやレンジやポット、カセットコンロに鍋や食器、テレビやゲームまで持ち込んで、授業が無い時間はずっとこの部室で過ごした。
テレビを眺める後頭部や、本を読む横顔に何度触れたいと思っただろう。横で無防備にうたた寝をされて、何度理性と闘っただろう。
いつの間にか俺は4回生になっていて、サークルは7人に増えていた。そして、三木に触れたいという思いも募りに募って、抑えるのが大変なほど大きくなっていた。
「来年には……小野さん、いなくなっちゃうんですね」
「寂しい?」
「寂しくないって言ったら、嘘になります」
「あと、1年かー」
「はい……」
そんな寂しそうな顔を俺に見せないで。俺がどんな気持ちで、どんなこと考えながら隣にいるか、分かってる?
「まー俺、院行くから来年も再来年もここ来るけどね」
「は……っ?」
「三木に寂しい思いなんてさせないから、泣かないで。ね?」
「泣いてませんよ! ほんっといつもいつもそうやってからかって……そういうとこ大嫌いです!」
「嘘ばっかりー。俺のこと大好きなくせにー」
「調子に乗らないで下さい。小野さんなんか嫌いです」
うん。俺がお前に手を伸ばさないように、そうやって『大嫌い』って言って。
俺の手が届かない距離にいて。
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