超人
「はーい、じゃあ1時間目が終わる10分前までグラウンドを走ってもらいます。自分のペースで絶対に無理はしないように」
体育教師が声をかけ、ホイッスルを吹くとA・B組の生徒たちは各々のペースで走り始めた。
運動部の足が速い奴、真面目に走る奴、ペチャクチャ喋りながら走る奴、ダラダラ走る奴、必死だけど遅い奴。ちなみに小麦は最後にあてはまる。
俺と鈴音はと言うと、ペチャクチャ喋りながら運動部よりも速く、トップ近くを走っているという特殊な奴になる。
「なぁ、えらくグラウンドが広いんだな。真ん中がネットで区切られてるけど、あっちが中等部ってことか?」
「あぁ。部活動の、時間だけ、解放されるんだ」
「へぇ。そーいや、お前何か部活入ってんの?」
「いや、練習とかダルイから、入ってない」
「ふーん? いい体してんのにもったいねーな。体力もあるみたいだし」
「中等部までは、サッカー部、だったからな」
「あー、そりゃ体力あって当然だな」
いや、お前こそその体力なに?
もう30分も走ってんのに全く息切れしてないし。俺はもう会話も途切れ途切れだっつの。そのちっちぇ体のどこにそんな体力があんだよ。
「それにしても寒ぃーなー。やっぱ山奥だからか?」
「さぁ、な」
暑いって! まだ体暖まってねぇの? ってことはこのペースでも軽く流してるってことかよ。超人か、お前は。
俺の虚勢もそろそろ限界に近付いたところで、体育教師がやっと再びホイッスルを吹いた。
「残り5分。ペースを上げられるなら上げてみましょう。無理だけはしないようにー」
無理だっつの! 今、俺必死なんだよ! 鈴音の前で平気な顔するのに必死!
「もう終わりか。高校の授業ってのは短いんだな」
「……どういう意味、だ?」
「えっ、あーいや! 俺が前に行ってたとこは1コマ90分だったからよ」
「へぇー。どこも一緒なんだと、思ってたぜ」
「だよなー? 俺も俺も!」
宝生学園は1コマ45分授業で間に15分の休憩を挟み、4時間目と5時間目の間に昼休みが1時間半ある。休み時間が15分あるのは学園が広いために、移動時間を長くとるという配慮だ。
そしてようやく、今度こそマラソン終了のホイッスルが鳴った。
「はーい、ゆっくり歩いてー。最低でもグラウンド一周するまでは立ち止まらないようにー。呼吸が落ち着いたと思った生徒から教室に戻って構いません」
終わった……! なんとか面目を守ったぞ、俺……っ!
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