鈴音のクリーム
「おはよー、鈴音、冴島。今日は野田先輩がいないみたいで安心したさー」
食堂の特別フロア下で、朝食を食べていた俺と空牙。そこに小麦が現れて、空牙の隣に座った。
「おっす! タロは今頃寝てんじゃねーかな。そっちこそイチローは?」
「さぁ? 起きたらもういなかったさー。よくあることだから気にしなくていいさー」
「へぇー、そうなんだ」
まぁ、いくら何でも毎日学校に通えるわけがないよな。アイツが。あれでも組織ではそこそこ上の立場にいるんだし。
「どうした? 険しい顔して」
「えっ、いやこの味噌汁、ダシ何でとってんのかなーって」
「ふーん?」
「今日から授業さー。いきなり1時間目から体育とかやってらんない」
「体育ってなにすんの?」
「冬だからな、マラソンだよ」
「来月の末にマラソン大会があるさー。10キロだよ? 10キロ! ありえないさー」
「そーか?」
「え、鈴音もしかしてスポーツ得意さー?」
「まぁ、好きだよ。なんでも」
「意外さー! スポーツなんかできなそーなのに」
「メガネ君だってやるときゃやるんだよ」
まぁでも、そのマラソン大会とやらで目立つ訳にいかないし、ゆっくり走るけど。
「さーてと、そろそろ学校行こうぜ。小麦、早く食べろよ」
「ちょっと待つさー!」
SIDE:空牙
1時間目が体育のため、1−A全員が教室で体操服に着替えている。
鈴音がスラックスを脱ぎ、ジャージに履き替える間、ジロジロ見ている奴がいた。
『なんかさーアイツ、顔は最悪だけど、体すげーよくね?』
『あぁ、白くて見るからにスベスベだな』
『足だって毛もなんも生えてねーじゃん』
『顔隠せば俺ぜんぜんアリ』
『俺もー』
そんな声が俺の耳に届いた。
「鈴音、早く上のジャージも着ろ。半袖で走る訳じゃないんだろ」
「当たり前だろ、そんな寒ぃーことできっか。でもクリーム塗っとかねーとダメなんだ、俺」
と言って、手に液体クリームを取り、両腕、特にジャージから出る両手に入念にクリームを塗り込んでいる。
「肌、弱いのか? 寒さで荒れるとか?」
「まぁ、そんなとこ。あとは顔と首にも……」
そう言って、鈴音が眼鏡に手をかけた。
「待て!」
「あ?」
「そういうのはトイレでやれよ、な? 鏡もあるし。ほら、ジャージ早く着て行くぞ」
「ちょー待って。コレ付けねーと」
鈴音はクリームを塗るために外していたらしい、白い革のブレスレットを左手首に付けた。
「あれ? お前そんなのしてたっけ」
「あぁ、昨日タロに貰ったんだよ」
「へー、そうなんだ。カッコイイじゃん」
「だっろー! タロとお揃いなんだ。色違い」
野田先輩め……。
今度会ったら絶対見せびらかしてくるな。うぜー。
小麦と一緒に3人でトイレに行った。鈴音がクリームを塗る間、小麦と外で待つ。他の誰にも、小麦にさえも鈴音の素顔を見られたくない。
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