デート(笑)
高級百貨店の中のカジュアルなメンズブランドに入る。今現在着ている服からして、鈴音も、もちろん俺も完全に浮いている。
「鈴音ってこういうのが好きなの?」
「あ? 別に好みって訳じゃないけど……」
と、言いながら次々と細めのジーンズとシャツとパーカーとジャケットを手に取る鈴音。
そして、店員に声をかけて試着室に入った。数十秒後、服を着替えて、カツラと眼鏡を外した鈴音……じゃなくて、リンが試着室から出てくる。
「いいじゃん! やっとリンらしくなった」
「だろ?」
これに驚いたのは、俺と並んで試着室の前で待っていた男性店員。
地味なモサッとした少年が身の丈に合わないオシャレな服を選んでるよ。とか思ってそうな視線でイライラしてたけど、着替えて出てきたリンの可愛さに声も出ないみたいだ。
ジロジロ見んな。殺すぞ。
「ねぇ、お兄さん。俺に合いそうな服適当に見繕ってくれる? パンツとジャケットをあと2つくらい、中は合いそうなのあるだけ。何着でもいいから選んで?」
「あ、ははいっ!」
「あと、これこのまま着て帰るから、値札外してください」
「はい! すぐに」
リンが服を着たまま値札を取ってもらおうとするから、俺は慌てて店員からハサミを奪った。リンに触ったりしたらマジで殺したくなる。
値札を全部取り終えると、今度は小物を選ぼうと可愛く誘ってくれた。
マフラー、ニット帽、耳当て、真っ先にそれらを手にとったリン。実はけっこう寒いのを我慢してたみたい。
そうこうしている間に、店員が服を選び終わったと声を掛けてきた。2人の時間を邪魔しやがって。死ねよ。
「じゃあ、それ全部」
確かめることもせずに、全部購入するリン。懐がでかいなぁ。さすが、リン。
「あんまり荷物増やしたくないんで、できるだけデッカイ袋にまとめてもらえます?」
「はい。分かりましたー」
「あとこの着てきた服も一緒に。それから耳当てとマフラー今すぐ使います」
「はい。……では、お会計13万5680円でございます」
「はい」
財布からスッと14万円出す。ほんとは俺が払いたいとこだけど、そういうのリン嫌がるからしない。嫌われたくないし。
「14万円お預かりいたします。……4千円と320円のお返しでございます。少々お待ち下さいませ」
店員2人がかりで袋に入れていく。結局、2つになった大きな袋。店の前までお持ちしますと店員が言ったけど、早く2人になりたいから奪った。
「いいよ。俺が持つから」
「悪いな、タロ。サンキュ」
「うん!」
決まったぁー! 今の最高にデートっぽい!
2人で買い物。リンのものを2人で選んで、荷物を持つ俺。いい感じっ。あとはお揃いの小物を買うとか……。
妄想を膨らませて、幸せに浸る。
「タロー、次、靴見ていいか?」
「うんっ」
スニーカー2足とブーツ1足を買って、またそこで靴を買ったばかりのスニーカーに履き替える。
荷物はちゃんと俺が持って、次の店に移動するリンに着いていく。リンが楽しそうで嬉しい。俺も楽しい。
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