男前タロ




 塀から抜け出すために作った足場がある場所に着いた。鈴音について来たのにここに着いたってことは……。


「鈴音なんでここに足場があること知ってんの?」

「えっ! あ、あぁ昨日見つけたんだよ」

「ふーん? ま、いっか。鈴音、登れる? これ俺とカズ用に作ったやつだから」

「ナメんな。余裕だよ」


 軽々と塀を乗り越える鈴音。やっぱ身軽だな。常人離れしてる。それに続いて、俺も塀を乗り越えた。


「鈴音ー。俺ここにバイク置いてんだ。後ろ乗って!」

「おー、なんか懐かしいなーお前のバイク」


 タンデムシートに乗りながら言う鈴音の口調がちょっとわざとらしい。きっと俺のバイクなんか懐かしくないんだ。鈴音のために付けたタンデムシートなのに。
 俺は着ていたブルゾンを脱いで鈴音の肩にかける。


「はい、バイク乗ると寒いからこれ着て?」

「いーよ! 前の方がさみーし、お前着てろって」


 鈴音、やっぱ優しい……! 超好き! 鈴音が返してくれたブルゾンを着直して、バイクに跨った。


「あ、でもメットは鈴音がしてね」

「そうか? サンキュな」


 今度は受け取ってくれた。俺のメットちょっとでかいみたい。ブカブカで可愛い。顔小さい。


「服、どこ行けばいい?」

「あー、とりあえずこのへんで一番でかいところ頼むわ」

「わかった。じゃあ行くよー」

「お、おいおい! こんなとこからエンジンかけんのマズいだろ!」

「大丈夫大丈夫! 寮は防音しっかりしてるし、誰かに聞かれても塀があるから見られないよ」

「そ、そうか」


 バイクを勢いよく発進させた。俺の後ろに乗り慣れてるから俺の腰に捕まったりしないのは残念だけど、たぶん風にあんまり当たんないように俺の背にくっついてるのが伝わってきて、幸せ。


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