カズという人
「じゃーなー! また明日ー」
昼食を食べ終えて、10階でエレベーターを降りたイチローと小麦を見送る。そして、12階でエレベーターにタロを残し、空牙と共に降りた。
「さーて、食材は届いてるかな〜っと」
パソコンで注文したものや、クリーニングから戻ったものが入れられると教わった部屋の前の大きなボックス。……開け方が分からん。
「なぁ、コレどーやって開けんの?」
「あぁ。ここに部屋のカードキーを差し込むと勝手に開く」
言われた通りにカードキーを差し込むと、ボックスの上部が少し浮き上がった。
「お、開いた開いた。……なんだ。食材はまだ来てねーな」
「まぁ、まだ1時だしな」
ボックスを閉め、空牙が開けて待っていてくれた玄関ドアをくぐり、そのままリビングのソファにドカッと腰を下ろす。
「……にしてもここはなんでもかんでもカードキーだな。無くしたら悲惨だ」
「なんかお前無くしそうだ……首から下げとけ」
「そーいやー誰かに盗まれでもしたら空牙にまで迷惑かかるんだよなー。……マジでぶら下げっかな」
キッチンからマグカップを2つ持ってきた空牙。片方はブラックコーヒー。もう片方はホットミルクが入っている。
ホットミルクを俺の前のローテーブルに置いて、コーヒーを手にしたまま俺の隣に座った。
「おーサンキュ! 気が利くねぇ」
「だろ」
「なんかさー、この部屋2人部屋って感じじゃねぇな。こんなサイズの2人掛けソファに2人並んで座るお前とカズが想像できねぇよ」
「あぁ、なかったな。話したこともほとんどない」
「あ? カズと仲良くなかったのか? 同室だったのに?」
「同室っつってもなー、あの人が部屋にいる時間に俺いなかったし、俺がいる時間にはあの人がいなかったからな。学年も違うし」
「へぇ、学年違うんだ?」
「は? 知り合いなんじゃねぇの?」
「年なんか知らねぇよー。んなこと聞かねぇもん」
「普通ルームメイトは中学からずっと同じで同級生なもんなんだけど、俺は中学で1人部屋だったからよ。たまたま空いてたこの部屋に入ったんだ」
「で、相手は学年の違うカズだったと」
「あぁ。カズって人、っつーか、一之瀬先輩が言うには、同室者に嫌がられて何人も同室になっては出て行ったんだと」
「カズが嫌がられる〜? ないない。あんないい奴なかなかいねーよ」
「ふーん?」
「あ! そうだ。カズに連絡しねーと、あいつ俺のこと探してんだった。ちょっとタロんとこ行ってくるわ」
立ち上がって玄関に向かう。靴を履きながらリビングに届くよう大きな声で空牙に声をかける。
「たぶんすぐに戻る。遅くても晩メシ作る頃には帰ってくるからなー」
「おぅ。野田先輩の部屋だけど……って、もういねぇ」
勢いよく部屋を飛び出して行った俺には空牙の親切が届かなかった。
「あいつ先輩の部屋どこか知ってんのか?」
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