変装の理由




SIDE:空牙

 小麦がかなりきょどりながら顔を近づけてくる。目から必死さも伝わってくる。


「……な、なんで野田先輩と呑気に朝食なんか食べてんのさっ!?」

「あ? あー……鈴音と前から友達なんだってよ」

「野田先輩と友達!? 何者なのさ……あの子」

「さー、まだよく知らねぇ」

「もしかして、あの子もそっち関係の子なんじゃないさ?」

「それはねぇと思うけどなぁ。あいつ素直でいい奴だぞ。野田先輩もあいつの前じゃ大人しいしビビんなくても平気だって」


 そうは言ってもキョドキョド落ち着かない様子。まぁ、怖いのは分かる。俺もキレたあの人は怖い。媚びてんのも恐いけど。


「小麦っ! 携帯、サンキュな」


 小麦に携帯を手渡す鈴音。そして横柄な態度で命令する先輩。


「またこいつの情報あったら教えろ」

「あ、はは、はいっ、もももちろんです!」


 顔が引きつり、顔色まで悪い小麦。そんな小麦は置いておいて、俺は立ち上がった。気になっていることを確かめるために。


「……鈴音、ちょっと来て」

「は? なに」

「いいから。あ、野田先輩は来なくていいっす」


 訳が分からないといった感じで立ち上がった鈴音を見て、先輩もすぐ立ち上がったが、それを止める。


「じ、じじゃあ僕はそろそろ学校行くさーっ!」


 止められた先輩の顔が恐ろしすぎて、小麦は即座に逃げた。


SIDE:鈴音

 空牙に連れられて、食堂を出たところにあるトイレの個室に入った。偶然にも、今朝金髪頭から鈴音の姿に戻るために使った個室である。


「なんだよ?」

「これ、……カツラなんだろ?」


 頭を上から軽く押さえて、半分断定的に訊ねてくる空牙。
 わぁー、空牙くんってば、勘がよくていらっしゃるー。こんな自然なカツラ、他に無いんだけどなー。すっげー高かったしー?


「なんで?」

「あの写メの奴ってお前だろ? お前も今日朝方に帰ってきたし。何より、野田先輩が興味持って写メ欲しがるあたり、おかしいんだよな」

「タロだって興味持つくらいあんだろ?」

「いや、ねぇな。あれはお前だ」


 断定!?
 くっそー、タロを使うんじゃなかったかな。タロってば実は意外と硬派で通ってんのかな。男に興味ねーぜ。みたいな?
 ……あ、そりゃねーか。タロはゲイじゃねーよな。うん。ごめんタロ。なんか俺この学園に早くも毒されてたみたいだ。

 言い逃れはできないと諦めて、空牙の前でカツラを取った。


「しゃーねぇ。そうだよ。あれは俺だ。……ほら」


 現れたのは、スプレーで染められた画像と同じ明るい金髪。
 もうここはプラスに考えよう。これで部屋ではうっとうしいカツラと眼鏡取っていいってわけだ。
 でも、カツラと眼鏡の理由、まだ思いついてません!
 内心焦る俺に、空牙は更に質問を重ねる。


「……カツラと眼鏡。理事長にでもしろって言われたのか?」


 なんで、理事長?
 これは乗っかるとどういう結論に達するんだ……? ちょっと様子見ながらいかないと墓穴を掘っちゃいそうだ。


「今までもこんなカツラや眼鏡する奴がいたのか? 理事長の指示で?」

「いや、聞いたことはないけど。眼鏡が伊達って聞いた時も、理事長か寮長の指示なんじゃねーかなって思ってた」


 寮長? ……ならこの話はレオンと繋がる心配はないな。乗っかってみるか。


「実はそうなんだ。理事長からこのカツラと眼鏡をずっと付けとくようにって言われてな」

「やっぱりそうか。うん、俺もそうしてた方がいいと思う、絶対。危ないし」


 ……なにが?
 でもまぁ、なんか知んねーけど、変装がバレた時のいい理由ができたじゃねーか。妙に空牙も納得してるし。
 これでもしキヨにリンだとバレたとしても、理事長に変装しろって言われてーって言っときゃなんとかなるな。たぶん。たぶんな。


「ちゃんと気ぃ付けとけよ」

「なにを?」

「いや、なんでもねー。……食堂、戻るか。野田先輩、待ってるし」


 カツラをきちんと被り直し、俺達は食堂に戻った。


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