金髪金眼の美少年
食堂の特別フロア下の席に座り、日替わり定食をよく噛んでゆっくり食べる鈴音。さすがに朝からは食前食後のデザートは食べず、量も控えているようだ。
「空牙、朝食わねーと頭働かねーぞ? トーストとコーヒーってお前それ」
「朝は食えねーんだよ」
本当は食堂にすら来ないけど。鈴音は食うだろうと思って誘ったってのに、野田先輩まで一緒に食べる羽目になるとはな。しかもまた当然の如く鈴音の隣に座りやがるとは……うぜー。
「朝はやっぱり米だよねー、鈴音?」
鈴音と同じものを食べながら、笑顔を垂れ流す先輩。そしておまけに俺に向かって勝ち誇った表情までする始末。うざすぎてやばい。脳の血管切れそう。
「だな。今までも朝メシちゃんと食ってたか? タロ」
「うん! 食べてた」
笑顔で嘘つくな!
あんたとカズって人は、いつも朝帰りでそれから爆睡してただろ。
SIDE:鈴音
「そっか。偉いな、タロ」
「でしょ! 撫でて撫でて?」
「よーしよしよし! えらいえらい!」
タロとジャレていると、空牙の元へ1人の少年が少し興奮した様子で近づいてきた。おーっと? こいつはまさか、俺より背がちっちゃいかもしれない……!
「ねー冴島! 聞いたさー? 金髪金眼の美少年の話っ」
ん? ……『金髪金眼』?
まさか……な。
「なんだそれ?」
「なんだー、まだ知らないの? もう学校中この噂でもちきりさー。なんでも今日の朝方に一般棟から寮への道で目撃されたんだってさ! 金髪金眼の美少年が! ま、僕の好みじゃないけどさー」
……それ俺じゃね?
いや、でも『美少年』が俺なわけねーし。
「金髪金眼の美少年ねぇ。そいつの顔はどんなだ?」
空牙くん?
なぜこっちを見てるのかなぁ?
「それが、詳しい情報はないんさー。誰が言い出した噂かすら分からない状態でさ」
「じゃあただのガセじゃねーか?」
興奮気味の少年は制服のスラックスのポケットから携帯を取り出して操作をしている。
「ううん! 写メも出回ってるさ! 後ろから撮ってあるから、顔はあまり見えないし、遠くから撮ったせいで画像は荒いけどさ……コレ!」
「……ふーん。これじゃ金髪ってことしか分かんねーな」
「俺にも見せて!」
「いいけどさ……あんた誰?」
「編入生。携帯貸して?」
「うん、はい。へぇー、編入生って珍しいさ。今日から?」
「うん。栗原鈴音、1年だよ。よろしくな?」
「僕は本庄小麦。1ーAさー。同じだったら仲良くしよーさ!」
「おぅ!」
「気を付けろよ、鈴音。こいつバリタチだから」
「だーいじょぶさー! 心配しなくても僕の好みじゃないから。僕は自分より大きな人をアンアン鳴かせたいタイプさー」
「へ、へぇー……」
キャラ濃っ! こんな可愛らしい外見なのに思いっきし下ネタじゃねーか! 若干引くわ。
気を取り直して画像を見たが、それはやはり俺だった。横からのぞき込んできたタロも気付いたようで耳元で囁く。
「それ……鈴音?」
「分かるか?」
「俺はそのカツラがない鈴音を知ってるし、なんとなく」
俺が寮に帰ったのは6時。寮が開けられてすぐだった。つまり、寮に戻る俺をこの距離、この高さで撮ったってことは、誰かが校舎にいたってことだ。俺と同じく寮を抜け出したか、もしくは生徒じゃないって可能性もある。
……麻薬の売買か……?
「……タロ、この写メあの小麦ってやつからもらってくれ。自然にな」
「わかった」
空牙と話をしている小麦に向かって、傍若無人な態度でものを言うタロ。
おい……それがお前の自然体なのか。
「そこのチビ。この画像俺に送れ」
「の、野田先輩……っ。ど、どどどうぞ! 赤外線でも何でもしてくださいっ!」
明らかにビビってどもりまくっている小麦。タロが恐いのかな、やっぱ。何人も病院送りにしたっていう話だし、家も家だからなぁ。そりゃ、普通は怖いだろうな。
チビって自分に言われた訳じゃないけど腹立つな。やっぱ。
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