闇屋との取引




 学園から1時間も経たず、吉原駅に到着した。着ていたコートのフードを被る。念のために顔は隠しておきたいからだ。


「3時か……まだ来ないとは思うけど、急がないと」


 基本的には常に20万円程度は現金を持っている。ノットクレジットカード派の俺は、財布から15万円とコインロッカー分の300円を取り出した。
 サッとコインロッカーに入れて鍵を閉め、指定通り一番近くにある自動販売機の商品受け取り口の奥に、温かいミルクティーを取り出しながら、自然に鍵を隠した。
 そして、そこから離れたベンチに腰掛け、ミルクティーの缶で暖を取りながら、取引完了の連絡を待った。本当はココアがあれば最高なんだけど、生憎、吉原駅の自動販売機には無かった。夏はアイスココアがあったんだけどなー。

 20分ほど経った頃、ポケットの中で携帯が震えた。


「もしもし?」

『代金は確かに受け取ったよ。鍵は自販機に戻したから、すぐに注文の品の確認を』

「分かりました」

『一度切るね』


 取引の時にお互いの姿を見ないのがルールだ。
 俺がいつも変装に使う道具を買うこの闇屋は、金さえ払えばなんでも買えると評判の人物。俺は変装道具以外買ったことはないし、今日カラースプレーが品切れしてたから、実際その評判がどのあたりまで真実なのか分からないけれど。

 とにかく、闇屋がどこの誰なのか、何人でやっているのか、全く不明。知っているのは電話番号くらいのもの。だけど、正体を隠したい俺にとっては、都合のいい取引方法だ。
 それに、スプレーは水に強くて専用のシャンプーで洗わないと落ちないし、それでも髪は痛まないし、自然な仕上がりだし、かなり気に入っている。カラコンは色も豊富だし、カツラは蒸れないし、手入れも楽だしで正直助かる。
 そんな素晴らしいこれらの商品はすべて、闇屋が作っていると聞いたことがあるが、それも真実かどうかは分からない。

 コインロッカーの中の商品を確かめ、闇屋に電話をかけた。


『どうだい?』

「確かに。注文した品は揃っています」

『毎度。今後ともご贔屓に』


 電話を切って、早速スプレーを試してみることにした。吉原駅の男性用トイレでスプレーをかけ、カラコンを入れた自分が映る鏡を覗く。


「……ずいぶん明るい色だな」


 ド金髪かよ。カラコンも金だし……。
 確かに明るいとは言っていたけれど、これほどとは思わなかった。


「これ……また逆に目立たねぇかな?」


 ま、いっか。もうなんでも。オタクでも目立つようになっちゃったし、金髪でもリンっぽくいきゃそれはリンだ。もうレオンだってことが分からなければそれでいい。なるようになるだろ。


「……あー、うん。言われなくても分かってるよ」


 鏡の中の自分を睨んだ。こんな感じでいつも適当だから駄目なんだよな、俺の方だと。行き当たりばったり。
 まあいいさ。結果が全て。終わり良ければ全て良し、ってな。


- 51 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -