情報屋さんと闇屋さん
閉寮してから数時間。俺はずっとロビーにいた。
午前2時をまわり、ようやくロビーにいた生徒全員が自室に戻ったところで、ポケットから携帯を取り出した。電話をかける先は決まっている。こういう時に役立つあいつ。
『もしもーし』
「俺だ。寮の正面扉の鍵の暗証番号、教えてくれ」
『ふーん。もう潜入したんか?』
この関西弁の男こそが、宝生学園にいる情報屋。宝生に麻薬の存在を知らせて、更に俺に依頼するように仕向けた張本人。
「あぁ、今日からだ」
『へぇ、えらい熱心やんけ。入ったその日に仕事か』
「まぁ、なかなか手こずりそうだからな。お前が下調べをあんまりすんなって言ったせいで、初日からグダグダだよ。色々困ってる」
『おもろいことばっかでビビるやろ。野田狼にはもう会ったか?』
「バーカ。前の仕事で関わった人間がいるのを隠すなよな。おかげで大失敗だ。俺で遊ぶな」
『お茶目なイタズラやんけ。ほんで何年何組の何て名前や? 暗証番号と交換や』
「そんなんでいいのか?」
『おーええで。どーせ俺に聞かんでも自分で開けれるくせにめんどくさいだけなんやろ?』
「まーな。何組かはまだ知らされてないけど1年だ。名前は栗原鈴音」
『……へぇ。鈴音か。それはまた今回もえらい可愛らしい名前やんけ。もしかして狙っとんのか? どんな変装しとるんや?』
「あ? 狙うってなんだよ? 今回は見てのお楽しみ」
『ホンマお前は分かってへんな。今回ばっかりは俺がフォローしたらんとあかんかもしれんなぁ』
「うっせ。早く、暗証番号」
『一時的に解除するなら"9501733#"で、完全に解除するなら"5593134#"や。解除した履歴は残るけど、よっぽどのことがない限りそんなもん誰も調べへん。ちなみに朝、寮が開くんは6時や』
「わかった」
『とりあえず明日からは俺もちゃんと学校行くわ。俺も1年やしよろしくなー』
「おぅ、じゃあまたよろしくな」
『はいよー』
よし、これで寮の外に出られる。
「……さて。次は、と」
次に電話をかけるのもお馴染みの人間。裏稼業御用達の闇屋さん。こちらは男だろうというくらいにしか知らないが、なぜか俺の苦手センサーが発動する。出来れば会いたくない奴。
『ご注文は?』
「ヘアカラースプレー12番。それからシャンプーとトリートメント。明朝までに吉原駅のコインロッカー。いけますか?」
『その声はレオンだね。ついこの間カツラを用意してあげたばかりなのに染髪? 悪いけど、12番は品切れで今すぐは無理なんだ。他の色じゃダメかな?』
「では、何色でも構いません。今そちらに多くあるものでお願いします」
『今、一番多く在庫があるのは5番かな。すごく明るい色だけどね』
「では、それ10本で。それに合うカラコンも頼みます。とりあえず3ヶ月分。視力は変わりありません」
『カラーコンタクトはヘアスプレー12番を用意できないお詫びに202番を無償で付けるよ。ただし料金は急ぎの追加料金を合わせて15万』
「ロッカーに入れておきます。いつも通り鍵は一番近い自販機の取り出し口に」
『了解』
電話を切り、携帯を半分にたたんで再び内ポケットにしまった。
「よし、駅に向かうか」
ずっと座っていたソファから立ち上がり、正面扉のセキュリティーシステムに近寄って、一時的に開錠する暗証番号を入力した。
扉の鍵が開く音を確認した瞬間に改札機のような管理システムを飛び越え、外に出た。
本当にこの寮から抜けるの簡単だ。寮内で麻薬売買をしてる可能性は低いかな。
扉が閉まると、すぐに自動で鍵が閉まる音がした。それを確認し、その場から去った。
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