"リンの"友達




 デザートをたらふく食べる鈴音と、鈴音にべったり甘える猫被りの野田先輩。かなり疲れる光景をずっと目にしながら夕食を済ませ、1206号室へと戻った。
 玄関先で、鈴音が野田先輩に小さな紙を渡している。俺はそれを後ろから眺めているというか野田先輩が鈴音に何かしないか監視をしている。


「はい、これ。俺の携帯の番号書いた。あとやることあるから今日のとこは帰れ」


 そうだ、帰れ帰れ。
 そのままこの部屋に現れるな。


「やだ! 俺、鈴音と一緒に寝るもん」


 な、なんだと!? そんなもんこの俺が許さねーぞ!
 てか、『やだ!』って。『もん』って、野田先輩が……。……気持ち悪っ!!


「今日は無理。また今度な」


 今度があってたまるか!


「えぇ〜……。じゃあチュー。おやすみのチューして?」

「はいはい」


 少しかがんで目をつぶって待つ野田先輩の頬に鈴音はキスをした。


「ほら、お前も部屋帰って寝ろ」

「はーい! おやすみっ、鈴音!」

「はい、おやすみ」

「また明日ね!」

「おぅ」


 手を振って野田先輩は部屋から出て行く。俺の思考は完全にストップ。頭がパーン。

 お、おおいおいおいおい……!
 なにからツッコめばいーんだよ? キスしたぞ。ホッペにキス! なにしてんだ! 俺もされてぇ!
 てか明日も会うのとか嫌だし!


「空牙なにしてんだよ? 早く食材頼もーぜ」


 すでに玄関先から離れて、俺の部屋の前にいた鈴音。冷静すぎる。……まさか、キスしたり、一緒に寝たりするのが当たり前の関係じゃねーよな?


「……あ、あぁ。だな」


SIDE:鈴音

 空牙の私室はブルーで統一されていた。ブルーのカーテン、ブルーのシルクのシーツ、ステンレスラックに置かれたブルーのコンポ。座り心地の良さそうなブルーの1人掛けの椅子。
 学習机は俺のと同じ備え付けのものだが、ベッドは私物のようだ。クイーンサイズ。……そういや、下半身だけの男なんだったっけ。

 学習机に座って、パソコンを操作する空牙とその後ろのベッドとを交互に見てしまう。


「で、何買うんだ?」

「ん? まぁ適当に。席替わってくれ。俺が選ぶ」


 空牙が立ち上がってベッドの上に寝そべった。さっきちょっとだけ男同士の何やらを想像してしまった俺だが、意識してないもん。という風を装い、パソコンに向かう。


「なぁ、……野田先輩とどういう関係なんだ?」

「タロと?」

「つーかそもそも『タロ』ってなに?」

「俺が付けた名前」

「は?」

「タロとの関係は、簡単に言うと、飼い主と犬?」

「はぁ?」


 はぁ? って言われてもなー、それ以外になんて言えば……。


「つまり、野田先輩が鈴音の飼い犬なわけ?」

「そういうこと。まぁ、半年前くらいに、3ヶ月ほど遊んだ仲間の1人だな」

「じゃあ別に深い仲じゃねぇってこと?」

「あ? あぁ、まぁな」


 仕事で作ったチームの一員だったってだけで……まぁ、そん中じゃあ一番仲は良かったけど。
 リンの友達であって、俺自身には特に関係ないし。今日からは栗原鈴音にとっても友達になったわけだけど、それだけっつーか……。

 ただ、タロがちゃんとやってるのかは、ずっと心配してたからなー、今回の仕事で会えて、ちょっと安心した。また躾が必要みたいだけど。


「……じゃあ、入り込む隙は十分ある、よな」

「あ? なんか言ったか?」

「なにも?」

「食材選び終わったぞ」

「じゃあ精算する」

「悪いな! ゴチ!」


 空牙はベッドから立ち上がって、パソコンに繋げられたカードリーダーに自身のカードキーを通した。
 食堂と同じく、それで精算が済むらしい。何でもかんでもカードキーだな、ほんとに。


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