OVERFLOW総長リン




 あ、そーだ。リンと同室の奴脅して部屋代わらせよう。そう思い立ち、俺はネームプレートを見た。
 『冴島空牙』
 そこに書かれていた名前を見て、あまりいい気持ちにはならなかった。部屋を代わることを嫌がられれば、脅してでも殴ってでもと考えていたが、相手が冴島となると別だ。家のこともあるし、面倒は避けた方がいい。
 だけど、条件次第じゃ簡単かもしれない。


「あ、そーだ。タロ、ここでは俺をリンって呼ぶなよ。キヨがいるんだ。バレるとやっかいだしさ」

「キヨが? この学園に?」

「お前気付かねぇのかよ?」

「……どーせバカ犬だもん」

「拗ねんなって。キヨってずっと帽子かぶってるから顔をしっかり見たことはないけど、間違いないぜ。生徒会長がキヨだ」

「会長が? なら会長は俺がOVERFLOWなの知ってるってことだよね」

「そういやOVERFLOW解散したはずなのに、まだ残ってるみたいだな。こっち来て驚いたぜ」


 『OVERFLOW』は、リン作ったチームで、リンは総長だった。
 半年前にリンが突然解散すると言って姿を消してしまったけど、メンバーは解散しなかった。っつーか、メンバーは解散するって言ったリンの言葉を信じていなかった。
 いつものように宴会を終えた朝、リンが言った。

『あ、そーだ。今日でOVERFLOW解散ね。今まで楽しかったわ。そんじゃあねん!』

 たった、それだけ。
 信じていなかったというより、信じたくなかった。ノリが軽すぎて。


「当たり前だよ。みんなリンが戻ってくるの待ってるんだよ?」

「ったくよー。総長が解散って言ったら解散しろよな。ま、また遊びに行くか」

「ほんと? リンが来たらみんな喜ぶよ」

「タロ、リンってのやめろ。栗原鈴音ってネームプレートにも書いてあるだろ」

「これが本当の名前?」

「まぁな」

「じゃあ鈴音って呼んでいい?」

「おぅ。そうだ、タロ。お前先輩なんだろ? 何年だ?」

「2年だよ」

「そっか。タロが年上だったとはなー。あぁ、タロって呼ぶのもマズイか。ここじゃあ、俺もタロのこと野田先輩って呼ぶわ」

「タロがいい!」

「いやでも、キヨに聞かれるとマズイし……」

「やだ!」

「……もー、しゃあねぇなぁ。わかったよ。ほんとおねだりだけは上手なワンコだな、お前は」


 だって、『タロ』はリンが付けてくれた名前だもん。
 リンだけが呼ぶ特別な名前だから。他の呼び方なんかやだ。


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