バカ犬
アップルパイを食べ進めていると、急に食堂内がザワつき出した。たまに叫び声まで聞こえる。……なんだ? 噂の生徒会役員のお出ましか? ったく、ここの生徒は……。
メシくらい落ち着いて食べなさい。せっかくのアップルパイだっつーのに、味わえないでしょーが!
「なぁ、なんか騒がしくね? 生徒会か?」
「いや、生徒会ならこんなもんじゃねぇよ。……ああ、入り口で誰か殴られてるみたいだ」
「殴られてる? まさか親衛隊の制裁ってやつ?」
「いや、そういうんじゃない。……野田って先輩がいて、常習犯っつーか」
「あ? 野田?」
「ヤバイ人だよ。喧嘩っ早くて今までに何人も病院送りにしてる。虫の居所でも悪かったんじゃないか。腹減ってるとか」
「なんだよ、それ」
そんなんで人を殴るなんか最低だぞ。確かに腹減ってるのは辛いし、イライラするけども!
「なんで誰も止めねぇんだ?」
「みんな自分まで巻き込まれんのが怖いんだよ。俺も勘弁。あの人には関わりたくない」
騒ぎになっている方が気になって目をやると、見覚えのある赤い頭が見えた。
「あ、あいつ……! 俺、行ってくるわ」
「え……おいっ! 待て!」
「空牙はメシ食ってろ。心配しなくても平気。知り合いだから」
「おい!!」
空牙の制止を振り切って、俺は騒ぎの中心に走っていった。
SIDE:?
「もう終わりかよ? つまんねー。オラ、起きろよ。もっと殴らせろ」
数発殴っただけでよだれを垂らして倒れている奴の腹めがけて、蹴りをいれた。でももう呻き声すらまともに出ないらしい。
もう壊れやがった。他に誰かいねぇかな……? なかなか壊れない奴がいーな。
「あ、今お前、目合ったよな? 喧嘩売ってんだろ?」
「い、いいえ、売ってません! 助けて! 殴らないで!」
「あー、口答えしたぁ。殴っちゃお」
怯える生徒の胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げた。軽い。こいつもすぐに壊れそうだ。
右手で拳をつくり、持ち上げられて泣きべそをかいている顔面に向かって振りかぶった時、制止がかかった。
「待て! お前、ちょっと来い!」
「あ? 誰だテメー。俺に命令してんじゃねぇよ、チビ」
持ち上げていた奴の胸ぐらを離し、その場に落としてチビに向き直った。チビでヒョロヒョロ。すぐ壊れそうでつまんねー。
「チビだぁ!? 調子のんなよテメェコラ。俺に向かって今言ったこと覚えてろよ? 早く来いっつってんだよ!!」
いきなりブチ切れて凄い剣幕で、俺の手首を掴んだ。そのまま食堂の外に引っ張られる。
なんだコイツ……。チビで弱そうなオタクのくせに腕を振り払えねぇだと……?
掴まれた手首に少しだけ痛みを感じる。どれだけの力で掴んでやがんだこのチビ。
「どこまで行くんだよダリーな。離せよ」
「とりあえず俺の部屋。お前な……、無抵抗な奴を殴るなって言わなかったか? 誰があんなただの暴力振るっていいっつった?」
「あぁ? お前何言ってんだよ? 意味わかんねー」
「眼鏡かけてるだけで俺に気付かねぇのか。お前やっぱバカ犬だな」
「……え?」
『バカ犬』
確かにそう言われた。俺は完全に思考が停止して、エレベーターまで連れて行かれるのにも全く抵抗しなかった。
「タロ。部屋に着いたらおしおきだ」
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