悩み多き年頃の太一くん
俺がオーダーしたメニューをウエイターが運んできてくれた。
「あ、来た! 俺の庶民派定食!」
「庶民派?」
「どうもありがとうございます! ほら、見て下さいよ寮長、いい感じでしょ?」
「……すごい量だね」
「そうですか? これでも少なめなんですけど」
白飯Lサイズ。生姜焼きLサイズ。キャベツの千切りにかける調味料まで選べたが、そこは当たり前に青じそ風味の和風なドレッシング。わかめのみそ汁Lサイズ。きゅうりの酢の物Sサイズ。飲み物は冷たい玄米茶。完璧なる庶民派生姜焼き定食。
「そんな細いのによく食べるなぁ」
あ、また地雷踏んだな!
ちっちゃいとガリガリは禁句なのに!!
俺とは対照的に量が少なめな寮長と向き合って昼食を食べ進めつつ、俺はかなり疑問に思っていたことを訊いた。
「デザートはいつ来るんですかね?」
「あぁ、デザートはそこのボタンを押すと……」
寮長が言い終わらない内に、俺は満面の笑みでボタンを押した。
「あ……もう押すんだ。まぁ、押すと作り始めてくれるから、あと少しで来るよ」
「早く来ないっかな〜」
「スイーツ好きなの?」
「大好きです!! 俺が世界で一番スイーツを愛している人間である自信があります!」
「役員にもいるよ。負けないくらい甘党が」
それは気が合いそうだ。この辺りでいいスイーツの店情報とかを交換し合いたいもんだ。
「寮長は生徒会と仲良しなんですか?」
「ん〜。今の役員の内、3人は一応友達かな。中等部の頃に生徒会で一緒だった」
「寮長も役員だったんですか」
「中3の時に1年間だけね。今の会長と、副会長1人と、書記はその時と同じ」
「へぇ〜。それで寮長にも親衛隊があるわけだ。……で、誰が甘党なんですか?」
「甘党は、俺も親しい訳じゃないんだけど、副会長の神宮寺って奴だよ。無口で無表情でボーっとした奴なんだけど、甘いもの食べるときだけ、うっすら嬉しそうな顔すんの」
「うっすら?」
「そう、ちょびーっとだけ嬉しそうに見える、くらい」
せっかく寮長が甘党さんについて説明をしてくれているのに、俺の目にはウエイターが運ぶ念願のブツしか入らなくなった。
「うぉ〜! きたきたきたきたぁ! 俺のジャンボパフェちゃん!!」
「……でかい」
ウエイターが運んできた特大サイズのパフェを、食べかけのご飯をどけて目の前に置く。もはや、他のことは何も気にならない。目の前にあるこのジャンボパフェだけが今俺の全て!
苺パフェLLサイズ!!
ギャー! 軽く見積もっても2キロはあるな!!
「……ま、まぁ、そんな至福の時! みたいな顔はしないってこと」
「いや〜すごい表情筋堅いんですね〜。俺なんか抑えようにも抑えられませんよ! このニヤケ顔」
「あ、前髪にクリームつきそうだよ。ピン貸してあげるから留めな?」
「あ、ありがとうございます!」
寮長からヘアピンを受け取って、俺とジャンボパフェちゃんの愛を阻む邪魔な前髪を全部横に流して留める。
「……あ」
「うっまーい! この苺バリうま!」
「栗原君、パフェ食べ終わったらすぐに前髪元に戻しなさいね」
「え? あ、はい。それは、もちろん」
「前髪がないと分かっちゃうよ。君の顔が綺麗だって」
「なーに言ってるんですか」
「ほんとにマズイから。眼鏡は絶対に外しちゃダメだよ! あぁ、どうしよう……こんな子が冴島と同室なんて……」
なんか寮長悩み出したんだけど。悩みが多い年頃なんだな、きっと。それで目とか頭もちょっとキてるのかも。じゃないと俺に綺麗とか言わねーもん。
かわいそうに……。
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