理事長室
5階でエレベーターを降りると、理事長室と書かれた部屋が真正面にあった。どうやら、この階には理事長室以外に特に重要な部屋はないみたいだ。
俺は理事長室の大きな扉をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて部屋の中に入り、丁寧にお辞儀をする。すると、紫檀の机、なんとも座り心地の良さそうな椅子に腰掛けている宝生が怪訝そうな顔をしている。
「……どなたかな?」
今回も俺の変装は完璧のようだ。まさかレオンだとは思うまい。この、ダサさ全開の俺を見てな!
俺は得意げに笑い、両手を広げた。もっとも長い前髪と大きな眼鏡のせいで表情は見えないが。
「レオンですよ。これは目立たない生徒の変装です」
宝生は合点がいったという顔をする。レオン仕様の声を出さなければレオンだとは気付かなかったか。完璧なる変装達人の俺。
「あぁ。うん、それくらいしないといけないね。君の場合」
「正体がバレるとマズイので」
「そういう意味ではないが……。その外見なら大丈夫だろう」
なに?
どういう意味なの?
「そこにあるのが君の制服と通学鞄と教科書。それから、これが寮の部屋のカードキーだよ」
来客用のソファと机。その机の上に置かれた物を指さしたのあとに、自らの前に1枚のカードキーを置く宝生。今日もダンディズムでいらっしゃいますね。羨ましいです。
「わざわざ用意して下さって、ありがとうございます」
「いや、それは構わないんだが……実は話していないことがあってね。寮は申し訳ないが2人部屋しか用意できないんだ。1人部屋は生徒会役員などの特別な生徒しか使えない決まりでね」
「構いませんよ」
「すまないね。その代わりと言っては何だが、カードキーは特別製のものを用意したよ。見た目は一般生徒用と同じだが、ゴールドカードキーでしか行けない場所も行けるようになっている」
「『ゴールドカードキー』とは?」
「それの説明は寮長の吉住君から聞いてくれ。カードキーはクレジットの役割も果たしている。食堂や、寮内のコンビニ、部屋に備え付けのパソコンでの買い物でしか使用できないけどね。請求は私にくるようになっているから、好きなだけ使ってくれていい」
机に置かれたカードキーを手に取った。表と裏を繰り返し観察する。
「それは自分で支払いますよ。学費や寮費だけでも相当なものでしょう? それは免除になるのですから。仕事とはいえ、高校に通うなんて、良い経験になりますしね」
「そうかい? もし何か必要があれば遠慮無く言ってくれ。あと、ルームメイトのことだが……」
と、宝生が言い掛けたところで誰かがノックをした。
「……あぁ、吉住君だな。あとは彼から聞けばいいだろう。レオン、よろしく頼むよ」
「はい。お任せください」
「吉住君、入ってくれ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、180センチ近くあるであろう長身に、整った顔、髪を金色に近いオレンジ色に染めた生徒であった。
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