桜井圭吾
その場でしばらく待っていると、灰色のブレザーを着こなしたどこか風格を感じさせる男子生徒が正門へ歩いてきた。
「待たせたな。生徒会長の桜井圭吾だ」
「キ……っ!?」
こいつ……キヨだ。
キヨの顔をじっくり見たことはないけど、間違いない。gadgetの総長が、日本屈指の桜井財閥御曹司……?
「『き』?」
「あっ、あの木! でかいですねー! あーあと、はじめましてー! よろしくお願いしまーす!」
俺は慌てて右にある2本の大きな木を指さしながら言った。ごまかそうとする俺を観察するように見ながら、キヨは応える。
「……あぁ。あれは双子楠と呼ばれている樹齢119年になる学園のシンボルなんだ」
「ふたごくすのきですかー。すごい大きさだ、ははっ、は……」
気付いてるー! こいつ絶対気付いてるよー!!
ヤバイ……。大失態だ。
「さぁ、理事長室へ案内しよう。申し訳ないが俺はこのあと用があるから、学内の説明は寮長にさせる」
「はい、分かりました」
先を行くキヨを追うように俺は歩き出した。
なんだよ。gadgetっつったらこの辺で一番のチームだぞ。その総長があの桜井財閥の嫡男だと? ありえねー。ありえなさすぎる。
つーか、俺やべーよ。この外見でキヨを知ってるなんて明らかにおかしい。完全に冴えないオタクで、友達はゲームとフィギュアです! 的な男を目指した俺だよ?
なんでこんな好青年捕まえて、『キ!?』とかって、名前口走りそうになんだっつーの。俺なにしてんの。まじで。平常心を取り戻せ。
悶々としている内に、校舎とは違う棟のエレベーター前に着き、キヨと俺はそのエレベーターに乗り込んだ。
「理事長室は、校舎一般棟の隣にある、この管理棟の最上階だ。ただし、管理棟のエレベーターは特別なカードキーがないと動かないから、俺のように持っている人間と一緒に乗るか、上階から招き入れてもらわないといけない。寮も同じようなシステムだ。詳しい話は寮長から説明があるはずだから」
「はい、注意します」
「じゃあ、俺はここで降りるが、5階に着けば理事長室はすぐに分かる。それじゃ」
「あ、ありがとうございました!」
エレベーターを降りたキヨの後ろ姿を見送りながら、ほっと胸を撫で下ろした。
あいつ、実は『キヨ』って言いそうになったの気付いてなかったとか? ……ふぅ、危ない危ない。助かったぜ。
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