宝生学園高等部




SIDE:鈴音

 あまり目立たない服装に、目を覆い隠すほど伸びた黒い髪、顔の大半を占める大きな眼鏡をかけた俺です。ごきげんよう。
 簡単に言うと、ダサイ服、ボサボサの頭、ダサでかい眼鏡の超もっさりボーイな俺、栗原鈴音(偽名)は呆然と立ち尽くしていた。


「なんじゃこりゃ……」


 これは……学校か? と疑いたくなる外観ではあるが、確かに『私立宝生学園高等部正門』と書いてある。
 合ってる合ってる。うん、確かに今日から通う高校だよな。
 いや、広いだろうとは思ってたけどよ、なんですか? この壮大すぎる空間の無駄遣いっぷりは。
 正門から校舎まで何百メートルあんだよ。校舎でかすぎだし。全校生徒450人弱のくせによー。
 あの右のでっかい楠の向こうにそびえてる塔みたいなのはなんだ。何の意味がある。左にはなんか洋風な庭園があるし。学校生活に必要ねーだろ。
 この門と塀の高さなに? 敷地周り全部にありそうなんだけど……端まで見えねー。高さは……4メートルは確実にあるな。
 何を防ぐ役割があんの? 御曹司ばっかいるから? 防犯?
 誰もこんな山奥まで来ねーよ! 最寄り駅から車で1時間ってアホか! バスもねぇし! 交通手段が自家用車かタクシーってよー、マジ意味不明!

 あ、逆に?
 山奥だからこその?
 熊とか猪とかいそうだしな。

 と、一通り学園の外観にケチを付けてみる。ツッコミ所満載の珍学園に早速今後の生活が不安になってくる。


「なんで誰もいねーの?」


 思わずこぼしてしまった独り言にも誰も気付いてはくれない。門の中、すぐそばにある警備員の詰め所のような建物には人の気配がないが、監視カメラがばっちり俺を捉えている。
 1月13日の始業式前日に来いって言われたはずなのに。正門に迎え寄越すみたいなことも言ってたのに!

 キョロキョロと周りを見渡しみる。しばらくして、目の前にあったインターホンがようやく目に入った。これぞ灯台下暗し! 控え目な見た目のインターホンをようやく俺は押した。


『……はい』

「あ、こんにちは! 俺、明日から編入することになってる栗原鈴音っていう者なんですけど」

『あぁ、聞いている。すぐ行くから待っていてくれ』

「はーい」


 俺は素直に頷き、素直にその場で待った。インターホンから聞こえた声をどこかで聞いたことある気がすると思いながら。


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