始まり
SIDE:レオン
優雅さの裏に、権力者の風格を持つ男。今回の仕事の依頼者。宝生財閥当主、宝生誠。
あーあー、嫌みなほど整った顔と身体ですこと。俺にもその恩恵が少しでも与えられていればね。
宝生は俺に勧めたソファの向かいに腰掛けた。足の長さを強調するように組み、俺に微笑みかけ話し始める。
嫌味ですか。認めたくはないけど、背が低い俺に対する嫌味なのですか。
「宝生学園のことは知ってくれているかな?」
「えぇ。日本で最大規模を誇る男子校ですから。創立119年、あなたが6代目の理事をなさっている学園ですね」
「もう調べはついているのか。話が早くていい。……そう、私の学園だ。ただし、私の仕事はそれだけではないのでね、ずっと学園にはいられないんだ。幼稚舎、初等部、中等部、高等部、大学、それぞれの学校長からの定期報告を耳に入れてはいるが、把握しきれるはずもない。そこに……」
「麻薬?」
「……あぁ、そうだ。高等部で麻薬を売っているものがいる。なぜそれを?」
「あなたの学園にいる情報屋が昔なじみでして。……彼は情報を提供するだけで直接手を下したりはしない。彼があなたに僕を紹介したのは、面倒だと感じたからでしょう」
「難しいとは思う。しかし、君ならできると信じている。私の依頼は、麻薬を売る者と使用している者を見つけ出し、捕まえて処罰し、学園から追い出すことだ」
「……僕に、お任せを」
「頼む」
「報酬の前金は必要ありません。その代わり、僕が宝生学園に編入する手続きをお願いしたい。名前は栗原鈴音。高等部の1学年に」
「お安いご用だよ。学園にいる間の必要経費もある程度こちらで負担しよう。それで成功報酬は?」
「そうですね……。現金で2億。依頼完遂時にいただきましょう」
「飲もう」
「それでは契約書の作成に入ります。机をお借りしても?」
「あぁ、構わないよ」
俺は背負っていた鞄から書類とペンを出し、手書きで、同じ内容の契約書を2枚作成した。
「依頼内容、報酬に間違いがないか確認していただければ、両方にサインと捺印を」
その契約書を差しだした。宝生はそれを手に取り、内容を改めて、俺が言った通り、署名し判を押した。
「それでは僕もサインをします」
判子なんか持ってない俺はサインのみ。まぁ、契約書つっても形だけっつーか、向こうの署名捺印さえありゃ報酬の請求くらいできるし、そもそも契約云々で揉めたことはない。
契約書の端を少し重ねて、割印の代わりに誰にもマネすることができない花押みたいなマークを書く。ちょっとカッコイイと我ながら思ってたりする。
「あなたも割り印を押して下さい」
再び差し出された書類に、宝生は言われた通り判を押した。
「それでは1枚をあなたが保管していてください。僕がもう1枚を。万が一にも紛失や偽造などされませんように。それが判明すれば、僕はあなたにとって困る結果になる行動をとります。よろしいですね?」
「あぁ、いいだろう」
「それでは、……何でも屋レオン、確かにこの依頼引き受けました」
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