意外と伝わらない言葉は多い
SIDE:小麦
会場のど真ん中でイチャついている野田先輩と月夜。かなり目立ってるのに、2人は気にもしてないみたいさ。
野田先輩って鈴音以外にもあんな表情するんさー。てっきり、鈴音一筋なんだと思ってたけど。……月夜って、なんなんだろ?
「小麦。やっと見つけた」
「一之瀬先輩。おはようございます!」
2月から学園に戻ってきた一之瀬和臣先輩。寮はあの野田先輩と同室さ。野田先輩とは仲が良いんだって冴島が言ってたけど、こんなに大らかで優しい人が、あんなに恐い人と、どういう繋がりがあるんさ?
ホテル業界で世界に名だたる一之瀬グループの長男と、五代目野田組組長の実孫。家柄に傷が付くことを考えて、野田先輩に近付く人なんてここじゃいないのに。
「考え事かや?」
「あ……、野田先輩と月夜ってどういう知り合いなのかなって。すごく仲が良さそうだから気になって」
「あぁ、俺があいつらにでくゎ……いや、出会った時には、あぎゃん感じだったけんのー。狼がリンにべったりで、リンもそげな狼を大切にしちょー。2人がなして知り合うたのかは知らん」
「リン?」
「ここじゃ月夜ってって呼ばれちょるけど、俺達はリンてて呼んじょー」
「一之瀬先輩は、どうしてあの2人と?」
「うーん……話すと長くなーから、また今度な。とにかくよ、俺達はOVERFLOWちーチームのメンバーだぢ」
「チーム?」
「みやすげ……え〜と、簡単に言うと、喧嘩が大好きな集まり」
『喧嘩好き』と『一之瀬先輩』が上手く結び付かない。一之瀬先輩が人を殴っているところなんて想像できないさ。
「俺達の総長がリン。笑いながら俺達を引っ張ってってくれる。リンが笑うと、この世は楽しいことで溢れちょーやな気がしてくる」
「あの人が、総長……?」
「……俺は、リンに魅了されちょるんだと思う。チームの奴らは全員そーだ。あらほど強て優しい奴はおらん。リンはきっと、俺なんかには考えつかんやな世界ねおって、俺達とおることでさえリンにとってはただの気まぐれなーかもっしぇん。そーでも、俺はリンの力ねなりてぇと思うし、リンの見ちょるもんを俺も見てみたいてて思っちょー」
「……喧嘩をすることが力になるってことですか?」
「いや、そら違う。ただ、俺もやっぱり喧嘩は好きだ。喧嘩をする奴は、嫌いか?」
「……暴力は嫌いです」
「そうか」
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