あーん
SIDE:狼
せっかくリンと2人っきりで楽しくやっていたのに、なぜか声を掛けてきた理事長の息子。
どういう関係か気になっていた所で、紹介してくれたのはいいけど……。チームに入れるってどういうこと? OVERFLOWに、理事長の息子を入れちゃうの?
「こないだチームに入りたいって言われてさ。まぁ、喧嘩はそんなに強くないけど、センスはあると思うから。タロが面倒見てやって」
さっきまでヘラヘラ笑っていた宝生の顔が、リンのその一言でサーッと瞬時に青くなった。
「うんっ。任せて」
俺はいつものようにリンにだけ見せる笑顔を向けた。リンも満足そうに頷いてくれる。
そして、宝生の肩に腕を置いた。ニタァと笑う俺の顔を見た宝生の顔が引き攣る。当然、リンからは見えないようにしている。
「……よ、よろしくお願いします」
「おう。俺が直々にしごいてやるから、喧嘩ぐれぇすぐ強くなれるぜ」
最早、宝生の顔は完全に苦笑いである。背中には嫌な汗が流れていることだろう。
「ま、タロよりカズの方がサポートに付くならいいんだけどよ。カズには他のメンバー任せてるからさ」
「野田先輩直々に見てもらえるなんて光栄ですよ」
おーおー、強がっちゃって。肩に置いていた腕を浮かせて、ポンポンと叩く。
リンにさえ手を出さなければ、チームの仲間としてそれなりに仲良くはするつもりだ。リンに手を出さなければの話だけど。
「じ、じゃあ俺、そろそろ裏方に戻りますね。失礼します」
「おう。んじゃな。また連絡するわー」
リンが大きく右手を振った。左手に持った料理の乗った皿は微動だにしない。
宝生が離れるとすぐに、また食事の続きを始めるリン。何かを食べてるときの幸せそうな顔、好き。
「あのさ、タロ? お前が持ってるケーキさ、食ってもいい?」
「もちろん。リンのために取ったんだよ。イチゴのタルト好きでしょ?」
「好きっ。食っていいのっ?」
「俺がスイーツ好きじゃないの知ってるじゃん。はい、あーん」
ただこれがやりたかったがために、俺はこのタルトをキープしていた。ザッハトルテも、モンブランも。
リンが俺に笑ってくれた。
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