いつだって一番可愛いのは君




SIDE:狼

 バレンタインパーティー当日。カズと一緒に鈴音の部屋に向かう。2月から同室になったカズだが、やっぱり今までの誰よりも過ごしやすい。俺にビビることもない。俺に媚びることもない。俺とリンの仲を邪魔することもない。こんなことなら、お互いルームメイトに困る者同士くっついておけばよかったのかもしれない。
 そんなことをカズと話しながら、鈴音の部屋のインターホンを鳴らす。すぐにドアを開けてくれたリンに飛び付いた。


「おはよ! 迎えに来たよっ、リン!」

「おっす。なんかテンション高いじゃん」

「へへ〜」


 抱きしめ返してくれた上に頭も撫でてもらって、俺はニヤけてしまう。


「カズも。迎えに来てくれてサンキュな」

「構わん。リンも狼も、危なっかしーて敵わんけんの」

「タロはともかく俺は平気だ」

「ここじゃリンの方が危ないんだからね」


 カズの訛りは会話をする上で問題の無いレベルになっていた。
 話し声が聞こえたからか、リビングのスライドドアが開いて冴島が出て来た。面白くないことに機嫌が悪いという訳でもないらしい。特にいつもと変わらない様子で、俺達に挨拶をする。
 今日リンからあまり親しいと思われるような行動はしないようにと言われていたのに。不満はないのか?


「じゃあ先行くわ。またあとでな」

「おう。またなー」


 俺達とは別行動。一足先に出ていく冴島を、リンを後ろから抱きながら見送る。


「悪いな、2人共待たせちまって。まだラッピングができてねぇんだ。すぐ、終わらせるから」

「大丈夫だよっ。いくらでも待つから」


 リンは手作りらしいトリュフをトッピングしたチョコレートプディングを保冷剤と一緒に箱の中に入れた。
 そして、箱とプディングの容器の間に少しできた隙間に、脱脂綿を詰めている。プディングの上にふりかけた粉砂糖と、詰めた脱脂綿が、まるで雪のように見えて、冬の季節にはぴったりだと思った。


「よっしゃ! でーきた。あとはリボンだな」


 なぜかノリノリのリン。可愛らしい赤とピンクの2本のリボンを結びながら笑っているリンが一番可愛い。
 ……誰に渡すんだろう? この学園の中なら、俺を選んでくれるんじゃないかと期待する反面、キヨや冴島かもしれないとも思う。


「リン。それ、誰に渡すの?」

「ないしょ! その方がおもしれぇだろ」


 いや、面白くはない。
 楽しみという気持ちと、不安な気持ちが入り混じって落ち着かない。
 ラッピングが終わったプリンを手に、リンが振り返る。


「よしっ! 準備完了! 行くか」


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