タイマン
「なに避けてんだオラァ!」
左ストレートを今度は避けずに右手で受け止め、がら空きになった右わき腹に少し加減をして蹴りを入れる。
ふむ。司は左利きだろうな。この程度の蹴りなら、ちょっとよろめくだけか。頑丈さもなかなか……。
と、俺が考えている間に、司が右足で俺の横っ面を蹴ろうとモーションを起こす。それを両腕で受けて掴み、残った左足を払う。掴んだ右足は離して、仰向けに倒れた司の腹の上に跨った。そして、人差し指で額を押さえた。
「蹴りの威力はあまり無い。片腕でも受けれただろうな。でもその前の左はまぁまぁかな。反射神経もなかなか。受け身もとれたみたいだし。あとは経験だな。いちいち大振りなのも直るだろ」
「は?」
「んだよ。まだ気付かねーの? 俺だよ」
眼鏡を外して、前髪を上げて顔を見せた。
SIDE:司
「……え!? リンさん!」
「おっす。お前チームに入っていいよ」
「本当ですか!?」
「正直に言って、俺がやる気になんないくらい弱かったけどさ。ま、誰かサポート付けるよ。強くなったらまた喧嘩やろうぜ。……あ、お前バイク乗れる?」
「……はい。持ってます。無免ですけど」
「おー、さすがは次男坊。夜バイクで出てきてっつったら出てこれる? 予定合う日だけでいんだけどさ」
「はい。俺は自由に出入りできるんで」
「あ、そっか。お前役員なんだもんな。じゃ、俺も暇じゃないからもう行くわ。書類拾うの手伝う」
散らばった書類を拾って、リンさんを見送った。俺が走りながら書類見てたせいでこうなったのに逆ギレして……怒鳴って殴り掛かって。何やってんだよ、馬鹿じゃん。
人が滅多にいない校舎で、誰も相手にしそうにないオタクにならキレたところで噂にすらならず、俺の評判を落とすこともないだろうとそこまで考えていながら……リンさんだという可能性まで頭が回らなかった。
バレンタインパーティーでのことも、スルーされちゃうし。『よろしく』って、チョコ下さいって意味だったのに……。
……あーあ。
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